先日、不動産を数棟持つ製造業の社長から、こんな連絡が来ました。
「屋根の修繕、来年にしようと思ってたんですが……やっぱり今年中にやったほうがいいですか?」
結論から言います。今期中にできるなら、絶対に今年やってください。 その判断一つで、数百万円の税負担が変わります。
修繕費は「出した年」しか使えない
法人で不動産を所有していると、毎年それなりの修繕費がかかります。外壁の塗り替え、設備の交換、屋根の補修……。こうした支出は、当期中に支払いが完了していることが、損金算入(税務上の経費計上)の大前提です。
今期500万円の修繕工事を来期に先送りした場合、どうなるか。
シンプルに言えば、500万円分の経費が「今年の決算」には一切反映されません。法人税の実効税率は規模によって異なりますが、約22〜34%の範囲で考えると、110万〜170万円ほどの節税機会がそのまま消える計算になります。
「来年に使えばいいじゃないか」と思うかもしれません。でも、来年には来年の修繕費が発生する。節税枠は毎年使い切ってこそ意味があります。先送りは「損失の先送り」ではなく、「節税チャンスの喪失」なのです。
税務署が教えない「もう一つの落とし穴」
ここからが本題です。修繕費の期限問題よりも、実はもっと根深いミスが多い。
それが「修繕費として一括計上できるのに、資本的支出として償却している」ケースです。
「資本的支出」とは、建物の価値を高めたり、耐用年数を延ばしたりする支出のこと。たとえば木造の建物を鉄骨に改築する、といった大規模な改修が該当します。こちらは一括で経費にはならず、長期間にわたって減価償却する必要があります。
一方、修繕費は「原状回復」が目的の支出です。壊れた箇所を直す、劣化した部分を元に戻す。これは当期に一括で全額経費にできます。
ところが実務では、「なんとなく大きな金額だから償却かな」と判断してしまっている社長が少なくありません。工事金額が大きいだけで、内容は十分「修繕費」であるケースが山ほどあります。
どう判断するか——60万円と10%の目安
実務でよく使われる判断の目安を紹介します。
- 一つの修繕で支出が20万円未満なら、原則として修繕費として一括経費計上できます。
- 支出額が取得価額の10%以下であれば、修繕費と認められることが多いです。
- おおむね3年以内の周期で行われる修繕は、金額によらず修繕費扱いが可能です。
ただし、これは一般的な目安であり、実際の判断は工事の内容・契約書・見積書の記載内容によって変わります。「修繕費か資本的支出か」の判断は、税務調査でも争点になりやすい領域です。
金額が大きいほど、事前に顧問税理士と確認しておくことを強くおすすめします。
12月決算の社長へ——今が本当のラストチャンス
12月決算の法人にとって、今は最後の追い込み時期です。
修繕費を今期に計上するには、今期中に工事が完了していることが条件。業者の手配・工事の完了・請求書の受領——これらが12月31日までに揃わなければ、今年の経費にはなりません。
業者の繁忙期は秋から年末にかけて集中します。「来月から動こう」では、すでに間に合わないことも多い。判断が必要な修繕があるなら、今週中に業者に連絡することをおすすめします。
もちろん、3月・9月など他の月次決算の法人も、決算月の2〜3ヶ月前から確認を始めておくのが賢明です。
法人不動産オーナーにとって、修繕費は「いつやるか」の判断だけで節税額が大きく動く項目です。先送りはリスクになる、という感覚をぜひ持っておいてください。
今期の修繕計画がまだ未確定なら、今すぐ物件ごとの状況を顧問税理士と棚卸しするのがおすすめです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。