先日、法人で複数の収益物件を持つ社長から、こんな連絡が届きました。

「去年の屋根工事、修繕費で落とせると思っていたんですが、決算後に税理士から資本的支出だと言われました。今期に全額落とせないんですか?」

その工事費用は600万円。もし修繕費で計上できていれば、法人税の実効税率(約34%)で計算すると、今期だけで約200万円の節税になる話でした。しかし決算は2週間前に締まっていました。

法人で不動産を持つ社長に、知っておいてほしい現実があります。不動産関連の経費は「決算が終わると、もう手遅れ」になるものが多いのです。今期に計上しそびれた経費は、永遠に取り戻せない損失になります。

500万円の工事で170万円の差が出る理由

不動産経費の落とし穴として、もっとも多い相談が「修繕費」と「資本的支出」の混同です。同じ工事でも、税務上の区分が変わるだけで、今期の節税額が劇的に変わります。

500万円の屋根工事を修繕費として計上できれば、実効税率約34%で今期だけで約170万円の節税になります。ところが「資本的支出」と判断されると、建物の耐用年数(場合によっては30年以上)で分割して減価償却することになります。今期に経費として落とせる金額は、わずか十数万円程度に激減してしまいます。

170万円と十数万円——同じ500万円の工事で、これだけの差が出るのです。

修繕費として認められる目安は、「壊れたものを元の状態に戻す」原状回復目的の工事です。外壁のひび割れ補修、設備の交換、雨漏り修繕などがこれにあたります。一方、建物の価値や性能を向上させる工事(断熱改修、設備のグレードアップ、増床など)は資本的支出とみなされやすくなります。

問題は、外壁塗装一つとっても「劣化した塗装の修繕」か「耐久性向上のための改修」かで判断が分かれることです。工事の目的と内容を、業者の見積書・工事写真とともに整理し、修繕費として計上できる根拠を揃えておくことが重要です。決算後に「やっぱり修繕費でした」と言っても、税務調査では通りません。

計上漏れが起きやすい3つの経費

修繕費・資本的支出の問題と並んで、法人の不動産オーナーが見落としがちな経費が3つあります。

保険料は一見わかりやすいように見えて、長期契約の火災保険は前払費用として按分処理が必要なケースがあります。数年分まとめて払っていると、計上ルールを誤りやすい。更新のたびに適切に処理されているか、今一度確認してみてください。

固定資産税は、年の途中に不動産を売買した場合の按分処理が争点になることがあります。売主から受け取った固定資産税相当額を収益として計上していないケースや、逆に二重計上しているケースが散見されます。取引のあった期は必ず確認を。

借入利息は、建物の建設・取得期間中に発生したものは原則として取得価額に算入しなければならないとされています(資本化処理)。これを誤って経費に落としていた場合、税務調査で修正を求められるリスクがあります。融資条件が変わったタイミングや、新規物件取得後は特に注意が必要です。

これら3つに共通するのは、「決算を跨ぐと修正が難しくなる」という点です。期中に気づいていれば修正仕訳で対応できる話が、決算確定後に発覚すると修正申告が必要になり、場合によっては延滞税・加算税のリスクも生じます。

「新しい節税」より「漏れをなくす」が最速

節税というと、新しいスキームを打つイメージになりがちです。しかし実際には、「計上できるはずの経費を正確に計上する」こと自体が、最もコストパフォーマンスの高い節税対策です。

500万円の工事を正しく修繕費で落とせれば170万円。保険料・固定資産税・利息の計上漏れをひとつ拾うだけで、数十万円になることもあります。リスクが低く、税務上の根拠も明確。新しいスキームを組むより、はるかに堅実な話です。

決算の2〜3か月前が、最も重要なタイミングです。この時期に以下を一度棚卸しするだけで、見落としを大幅に減らせます。

  • 今期に行った工事・改修の内容と金額(修繕費か資本的支出か)
  • 火災保険・地震保険の更新と計上状況
  • 不動産に紐づく借入の利息処理
  • 固定資産税の按分が必要な売買取引がないか

法人で複数の物件を持っている場合、この棚卸しだけで年間数百万円の違いが出ることは珍しくありません。今期の決算が近づいているなら、顧問税理士に「不動産経費の棚卸しをしたい」と相談するのが最善の一手です。手遅れになる前に動くこと——それが最もシンプルで確実な節税対策です。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。