先日、不動産を数棟保有する製造業の社長から、決算直前に電話が来ました。「今期、利益が思ったより膨らんでしまって……税金がかなりやばい額になりそうで」と。

そこで私が聞いたのは、「気になっている修繕箇所、ありませんか?」という一言でした。

「そういえば、倉庫の外壁が何年も前から気になっていたんですよ。そろそろ塗り替えないとまずいな、と」

その返答で、話の流れが変わりました。

修繕費は「今期の経費」にできる

法人が保有する不動産の修繕費は、年度内に工事が完了して費用が確定していれば、全額その期の経費として計上できます。

ポイントは「完了」の一言です。3月決算であれば、3月31日までに工事が終わっていること。請求書が届いていて、支払い義務が確定していることが条件です。「4月に支払う予定」という状態でも、3月末に工事が終わって請求書が届いていれば今期の経費になります。逆に、3月中に着工しただけで完了が4月にずれ込んだ場合は翌期の計上になります。

外壁塗装、空調設備の交換、内装の改修工事、駐車場の舗装修理——これらは修繕費として計上できる代表的なケースです。

1,500万円の修繕費で、なぜ500万円の節税になるのか

具体的な数字で確認しておきましょう。

法人の実効税率は、課税所得が800万円を超えると約34%になります。ざっくりいえば、利益が1,000万円増えれば税金が340万円増え、逆に1,000万円の経費を積めば税金が340万円減る計算です。

修繕費を1,500万円計上できれば、1,500万円 × 34% ≒ 510万円——約500万円の法人税圧縮になります。

ここで一つ、誤解しやすい点があります。「1,500万円の修繕費 = 1,500万円の節税」ではありません。経費として計上した金額に実効税率をかけた分だけ税金が減る、というのが正しい理解です。出費は1,500万円でも、手元に残るお金が500万円増える——そういうイメージで捉えてください。

「修繕費」と「資本的支出」、ここが判断の分かれ目

注意が必要なのは、すべての工事が修繕費として計上できるわけではない点です。

修繕費と混同されやすいのが「資本的支出」です。資本的支出とは、建物の価値を高めたり、耐用年数を延ばしたりする工事のことで、一括経費計上はできません。複数年にわたって少しずつ費用化する「減価償却」が必要になります。

古い窓を断熱窓に取り替えた、電気容量を大幅に増強した——こうした工事は資本的支出に該当する可能性があります。一方で、雨漏りを修理する、剥がれた外壁を塗り直す、壊れた設備を同等品に取り替える——これらは修繕費として認められやすいケースです。

判断の参考基準としてよく使われるのが「60万円基準」と「10%基準」です。修繕費用が60万円未満、または取得価額の10%以下であれば修繕費として処理できる可能性が高いとされています。ただしこれはあくまで目安であり、工事の内容や状況によって判断は変わります。

「修繕費かな?」と思っても、発注前に税理士に確認してから動くのが鉄則です。工事が終わってから「資本的支出でした」となっても、もう取り返しがつきません。

決算前の「発注タイミング」が命

3月決算で修繕費を今期に計上するには、3月31日までに工事を完了させる必要があります。

建設業者の繁忙期は1〜3月に集中しやすく、2月になってから業者を探しても、希望の時期に着工してもらえないことが多いです。内装や外壁の規模によっては1〜2ヶ月かかるケースもあり、今から逆算すると思ったより時間的余裕がありません。

「やろうと思っていた修繕がある」なら、今すぐ業者に連絡してスケジュールを確認することが先決です。

押さえておきたい注意点

最後に、よくある落とし穴を整理しておきます。

  • 工事完了が4月にずれた場合: 翌期の経費です。「3月中に着工した」だけでは今期に計上できません
  • 見積書だけでは不十分: 工事が終わり、請求書が届いて費用が「確定」した状態が必要です
  • 大規模改修は資本的支出になりやすい: 疑わしい場合は必ず税理士に確認してから発注を
  • 分割払いでも経費計上できる: 支払い時期ではなく、費用が確定したタイミングが基準です

不動産を持っている法人オーナーにとって、修繕費の活用は節税の基本中の基本です。「どうせやる工事なら、税金を減らしながらやる」という発想が、長期的なキャッシュフローの差につながります。

決算まで2〜3ヶ月を切っているなら、まず所有不動産の修繕箇所をリストアップして、税理士と一緒に計上できる費用を洗い出してみてください。思わぬ節税余地が見つかることがあります。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。