先日、製造業を営む社長から相談を受けました。工場の敷地と建屋を個人名義で所有していて、毎年30万円ほどの固定資産税を自分の口座から振り込んでいるというのです。
「会社のために使っている土地なのに、なぜか税金は自腹で……なんとなく損している気がするんですが」
その「なんとなく」は正解です。でも多くの社長は、その損が毎年続いていることに気づいていない。固定資産税は「誰が払うか」によって、10年単位で見ると100万円近い差が生まれることがあるんです。
法人名義なら固定資産税は全額「経費」になる
法人が所有する不動産の固定資産税は、支払った全額が法人の損金(経費)として計上できます。これは特別な節税スキームでも何でもなく、法人が納税義務者として固定資産税を払っている以上、事業に関わる費用として当然に経費処理できるという話です。
ところが個人が所有していると、その土地や建物をどれだけ事業に使っていても、固定資産税は個人の出費として処理されます。法人から個人への賃貸料を設定していない限り、法人にとっては関係のない支出になってしまいます。
この違いが、積み重なると大きな差になります。
30万円の固定資産税が生み出す「7〜10万円の節税」
節税効果を具体的に計算してみましょう。
年間30万円の固定資産税を法人経費にした場合、課税所得が30万円分圧縮されます。法人税の実効税率は、年間所得800万円以下の中小法人なら約23%、超えると約34%が目安です。
- 所得800万円以下のケース:30万円 × 23% ≒ 年約7万円の節税
- 所得800万円超のケース:30万円 × 34% ≒ 年約10万円の節税
1年だけ見れば「思ったより少ないな」という感想かもしれません。でも10年続ければ70〜100万円です。しかも毎年自動的に節税効果が発生し続けるわけですから、固定資産税を払い続ける限り、この差は広がり続けます。
「昔から個人名義だから」が一番もったいない
このような状況が起きやすいのは、事業を始める前から所有していた土地・建物を、そのまま会社に使わせているケースです。
親から相続した工場の敷地、自分が購入した事務所用地……。「会社のために使っているけど、名義変更は面倒だし費用もかかるから」と、なんとなく個人名義のまま何年も経過している。こういった物件が一つでもあれば、毎年少なくとも数万円単位の節税機会を見送っていることになります。
移転するなら「損益分岐点」を計算する
「では今すぐ法人に移転しよう」となるのが自然な発想ですが、個人から法人への不動産移転には注意点があります。
個人から法人への売却は「譲渡」として扱われます。取得当時より不動産の価値が上がっていれば、その差額(含み益)に対して譲渡所得税が発生することがあります。登記費用や不動産取得税も加わるため、移転コストが思いのほか大きくなるケースもあります。
判断するときは、次の3点を整理するとすっきりします。
- 現在の含み益はいくらか(=移転コストの大きさ)
- 毎年の節税額はいくらか
- 何年で移転コストを回収できるか(損益分岐点)
含み益が少なく、固定資産税が高い物件なら早期移転が得になりやすいです。逆に含み益が大きければ、移転コスト回収に10年以上かかる計算になる場合もあります。焦って動くより、きちんと試算してから判断するのが正解です。
まず手元で棚卸しするところから
今すぐできることは一つ。自分や自社が所有する不動産を書き出して、「どれが法人名義で、どれが個人名義か」を確認することです。
事務所、工場、倉庫、社宅……。それぞれの固定資産税納税通知書を引っ張り出せば、誰が納税義務者になっているか一目でわかります。
個人名義のまま法人に使わせている物件が見つかったら、それが見直しのチャンスです。移転すべきかどうかは顧問税理士との試算が必要ですが、「現状を把握する」だけなら今日中に終わります。
固定資産税の納税通知書は毎年4〜6月に届きます。今年の通知書がまだ手元にあるなら、名義欄を一度確認してみてください。知らないまま払い続けるのが、一番もったいない節税ロスです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。