先日、顧問先の社長からこんな連絡が入りました。「税務署から調査が入った。3年前に購入した不動産の経費、全部ダメだと言われた」——。

売上3億円の建設業の社長で、節税目的で一棟アパートを法人名義で購入していたのですが、その経費がごっそり否認されてしまったのです。

不動産節税は、正しく使えば強力な手段です。しかし「法人で買えば経費になる」という雑な理解で動くと、数年後に取り返しのつかない結果になります。

税務署が狙うのは「事業実態のない経費」

税務調査で最もよく否認されるのが、「その不動産、本当に事業に使っていますか?」という問いに答えられないケースです。

節税目的だけで購入した不動産を、形式上は社宅や事業用資産として計上している——税務署はここを徹底的に突いてきます。役員が実際に居住しているか、賃貸収入が発生しているか、事業との関連性が明確か。これらが曖昧だと「事業実態なし」と判断され、全額否認されます。

怖いのは、税務署には7年間さかのぼって調査できる権限があるという点です。悪質と判断されれば時効が延び、数年前の取引まで一気に掘り起こされます。

1000万が1500万になるカラクリ

追徴課税は「元の税額を払えばいい」では済みません。否認された場合に加算されるのは以下の通りです。

  • 重加算税:元の税額に対して35%(悪質と判定された場合)
  • 延滞税:申告期限の翌日から日割りで加算

仮に否認で生じた追加の法人税が1,000万円だとすると、重加算税だけで350万円上乗せ。さらに数年分の延滞税が加わり、実際の支払総額が1,500万円を超えるのは珍しくありません。

節税しようとして、結果的に通常より多く払うことになる。これが追徴課税の本質的な怖さです。

法人活用は「事業実態」が絶対条件

不動産を使った節税スキームが否認されるパターンには、いくつかの共通点があります。

購入時の動機が「節税」だけで、事業計画が存在しない。役員社宅として使っているが、賃料設定が適正でない。修繕費・管理費を経費に落としているが、管理の実態がない。これらが重なると、税務署には「節税のための形式的な取引」と見なされます。

法人で不動産を持つ場合は、賃貸事業としての実態を最初から作ることが前提です。入居者との賃貸借契約、適正な賃料収入、管理業務の記録——これらが揃って初めて、経費として認められる土台ができます。

「節税になると聞いて」は言い訳にならない

追徴課税が怖い理由のひとつは、「知らなかった」が通用しないことです。税法は「善意の無知」を免責しません。

ネットや知人から「法人で不動産を持てば節税になる」という情報を得て、税理士への確認なしに動いてしまうケースが増えています。とくに決算直前に駆け込みで購入するパターンは危険で、節税効果よりも調査リスクの方が大きくなることがあります。

不動産は金額が大きい分、ミスの代償も大きい。だからこそ、購入前の設計が重要です。

今すぐ確認してほしいこと

法人名義の不動産をすでに保有している方は、一度立ち止まって確認してみてください。

賃貸借契約は適正な賃料で締結されているか。その不動産が事業にどう貢献しているか説明できるか。購入時の意思決定資料(事業計画・稟議等)は残っているか。

これらを整理しておくだけで、万一調査が入ったときの対応が大きく変わります。書類と実態が揃っていれば、税務署も無闇に否認はできません。

不動産節税は「買うかどうか」ではなく「どう使うか」で結果が決まります。購入を検討している段階から税理士を巻き込んで、事業実態の設計を先にしておくのが最善の対策です。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。