先日、設備投資を終えたばかりの製造業の社長から、こんな一言をいただきました。

「税理士から『定率法の届出、出してましたっけ?』って聞かれて、意味がよくわからなかったんですよね」

聞けば、1,000万円の機械を導入したにもかかわらず、減価償却の方法は税務署が自動で決めたものをそのまま使っていたとのこと。結果として、もっと早く経費にできた分を、何年もかけてじわじわ計上していたわけです。これ、実はかなり多くの社長が無意識にやってしまっているパターンです。

「自動で決まっている」という落とし穴

減価償却には大きく2つの方法があります。定額法定率法です。

定額法は、取得した資産の価格を耐用年数で均等に割り、毎年同じ金額を経費にしていく方法。シンプルでわかりやすいのですが、経費の計上ペースはゆっくりです。

一方の定率法は、残存する帳簿価額に一定の率をかけて経費を算出するため、購入初年度や早い時期に多くの金額を経費化できます。同じ1,000万円の設備でも、定額法なら耐用年数10年で毎年100万円ずつの計上になりますが、定率法を使うと初年度だけで200万円以上を経費にできるケースもあります。

この差は、利益が出た年に設備投資を行う場合に特に大きく効いてきます。

法人には「早く経費化できる権利」がある

個人事業主の場合、届出がなければ原則として定額法が適用されます。ところが法人は原則として定率法が使えます。つまり何もしなくても定率法が適用されるはずなのですが、実務の現場では「届出を出していないから定額法になっている」というケースが少なくありません。

法人設立時や新たな資産区分が生じたタイミングで届出の処理が抜けてしまったり、そもそも担当者が意識していなかったりするのが原因です。税務署は親切に「損してますよ」とは教えてくれません。

利益が大きく出た期に、ちょうど大型設備を入れていたとしましょう。そのタイミングで定率法を使えれば、法人税の負担を一気に圧縮できます。でも定額法のまま放置していたら、その恩恵は10年かけて少しずつしか受け取れない。同じ設備投資なのに、届出1枚の有無で手元に残るキャッシュが年間で数十万円〜100万円単位で変わってくるわけです。

2つの大切な「例外」を知っておく

ここで必ず押さえておきたいのが、定率法が使えない資産があるという点です。

建物・建物附属設備・構築物は、法人であっても定額法のみが認められています。2016年度の税制改正以降、この扱いになっています。「うちは工場を建てたから定率法で大きく落とせる」と思っていた社長が、実際には定額法しか使えなかったというケースも見てきました。対象となる資産の種類をきちんと確認することが大切です。

もう一つが、届出の期限です。減価償却方法の変更届出は、適用を受けたい事業年度の開始日の前日までに税務署へ提出する必要があります。「今期の利益が大きいから今から変えよう」と決算直前に気づいても、すでに手遅れというケースが多い。これが冒頭の社長のように「青ざめる」原因になります。

来期に備えるなら、今から動いておくことが重要です。

減価償却は「いつ経費にするか」の戦略

節税の本質は、経費をゼロにすることではなく、経費を計上するタイミングをコントロールすることにあります。減価償却はその最たる例です。

利益が少ない年に多く経費を積んでも、節税効果は限定的です。逆に利益が膨らんだ年に、合法的に経費を前倒しできれば、キャッシュの流出を最小限に抑えられます。定率法はその「前倒し」を可能にするツールです。

設備投資の計画を立てるとき、税理士と一緒に「いつ、何を、どの方法で償却するか」を事前に設計しておく。これだけで、同じ投資からまったく異なる節税効果が生まれます。

今すぐ確認してほしいこと

自社の減価償却方法が定率法になっているかどうか、まだ確認していない社長は、ぜひ一度、顧問税理士か経理担当者に「うちは定率法の届出、出てますか?」と聞いてみてください。

特に来期に大きな設備投資を予定しているなら、事業年度が始まる前に届出の要否を確認しておくことを強くおすすめします。たった1枚の書類が、年間100万円単位の差を生むことがあります。


※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。