先日、年商2億円の製造業を営む社長からこんな相談がありました。「区分マンションを3室持っているけど、毎年確定申告のたびに税金の高さに驚いている」と。
話を聞くと、3室すべて個人名義。家賃収入は年間約600万円。そこから税理士に計算してもらった納税額を見て、「これで合っていますか?」と首を傾げていました。
実は、これは珍しいケースではありません。不動産を個人名義で持ち続けることで、払わなくてよかったかもしれない税金を何年も払い続けているオーナーは、思いのほか多いのです。
個人と法人、税率の差がすべての起点
まず数字で整理しましょう。不動産収益を個人で受け取る場合、所得税は最高45%。そこに住民税10%が加わり、課税所得の高い人であれば合計で最大55%の税率がかかります。
一方、法人の実効税率はおおむね34%前後。この約20ポイントの差が、毎年の税額に直接跳ね返ってきます。
たとえば法人利益が1000万円あった場合、個人なら55%で550万円の税負担。法人なら34%で340万円。この一点だけで年間210万円の差が生まれます。収入規模の大きい社長ほど、この差は拡大していきます。
減価償却費が「見えない武器」になる
税率差だけでも十分なメリットがありますが、法人にはもう一枚カードがあります。「減価償却費の損金算入」です。
建物は毎年少しずつ価値が減るという考え方から、その減少分を毎年費用として計上できる仕組みです。
わかりやすい例で考えてみましょう。3億円のRC造マンション(法定耐用年数47年)を法人で購入した場合、年間の減価償却費は約640万円になります。これが丸ごと損金として落とせるため、法人税の計算上は利益を640万円圧縮できます。
税率34%で計算すると、年間約220万円の法人税軽減効果です。何もしなければ払っていたはずの220万円が、合法的に手元に残る計算になります。
所得の分散で、さらに差が広がる
法人を使うメリットはまだあります。「所得の分散」です。
法人で不動産収益を受け取り、そこから役員報酬として自分や家族に支払うことができます。役員報酬には給与所得控除が適用されるため、個人で不動産収益をそのまま受け取るよりも実質的な手取りが増えるケースがあります。
奥様や後継予定のお子さんを役員にして報酬を分散すれば、一人に集中していた高額所得を複数人に分けることで、累進課税の影響を和らげることができます。
税率差・減価償却・所得分散の三つが重なると、規模によっては年間1000万円を超える税差が現実になります。これは計算上の理論値ではなく、実際の顧問先で起きているケースです。
「法人に移せばいい」とも限らない
ただし、単純に「法人にすれば必ず得」という話でもありません。
個人から法人への不動産移転には、不動産取得税・登録免許税・譲渡所得税などのコストが発生します。特に含み益のある物件を移転すると、その時点で多額の税負担が生じ、かえって損になるケースもあります。
また法人の維持コスト(決算費用・社会保険料等)も考慮が必要です。収益規模が小さすぎると、節税メリットをコストが上回ることもあります。
さらに相続税の観点では、法人株式として評価される場合と個人不動産として評価される場合で扱いが異なるため、長期的な事業承継の設計も同時に考える必要があります。
まず「個人と法人の比較試算」から始める
既に個人で複数の不動産を持っている社長、あるいはこれから不動産投資を始めようとしている社長は、一度「個人と法人、どちらで持つべきか」を税理士と一緒に数字で比較してみてください。
感覚論ではなく、実際の収益規模・税率・将来の相続も含めた試算をすることで、はじめてどちらが有利かが見えてきます。不動産は額が大きい分、最初の一手が長期的な税負担に大きく影響します。「とりあえず個人で」という選択を後悔する前に、今期中に一度整理しておくことをおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。