先日、不動産を購入したばかりの社長からこんな言葉をいただきました。

「銀行に毎月返済しているのに、なんで決算書の利益がこんなに出てるんですか?税金が思ったより高くて……」

この疑問、実はとても本質的なところを突いています。そしてこの「ズレ」の正体を理解すると、逆に借入返済をしながら手元に現金を残す設計ができるようになります。今日はその仕組みをできるだけわかりやすくお伝えします。


現金が出ないのに「経費」になる、これが減価償却の本質

減価償却とは、建物や設備といった資産の価値が時間の経過とともに減っていく分を、毎年少しずつ経費として計上できる仕組みです。

大事なのは、この経費計上のタイミングでは、現金は1円も出ていかないという点です。お金はすでに購入時に(あるいはローンという形で)動いています。でも税務上の経費は、その後何十年にもわたって毎年少しずつ認識される。

たとえば1億円の建物を購入した場合、法定耐用年数に応じて年間約250万円ずつ、最大47年間にわたって経費計上できます。法人税率を30%と仮定すると、毎年250万円 × 30% = 75万円の節税効果が、現金の追加支出なしに得られる計算になります。

47年間続ければ、累計で3,500万円超の節税。数字にするとかなりのインパクトがありますよね。


「返済額」と「減価償却費」の差額が、あなたの手残りを決める

ここからが実務でとても重要な話です。

銀行への返済は、元金部分と利息部分に分かれています。このうち利息は経費になりますが、元金の返済は経費になりません。つまり、毎月返済していても、元金部分は税務上まったく経費として認識されない。

一方、減価償却費は現金を使わないのに経費になる。

この2つの「ズレ」を組み合わせると、次のような構図が生まれます。

  • 元金返済 → 現金は出ていくが、経費にならない
  • 減価償却費 → 現金は出ていかないが、経費になる

つまり、減価償却費が元金返済額を上回っている期間は、税引き後の手残りキャッシュがプラスになりやすいのです。

具体的なイメージでいうと、年間の元金返済が200万円、減価償却費が250万円だとすれば、差額の50万円分は「経費として処理されているが、現金としては手元に残っている」状態になります。


この設計、最初から意識しておかないと後で後悔する

ここで注意しておきたいのは、この「差額の恩恵」は永遠には続かないという点です。

減価償却費は耐用年数が終わればゼロになります。一方、借入の返済はその後も続くことがある。するとある時期から逆転が起き、税金負担が重くなり、手残りが一気に減るという現象が起きます。

これを知らずに物件を購入した社長が、数年後に「なんか急に税金が増えた」と焦るケースは少なくありません。

だからこそ、物件購入前の段階で、減価償却と返済スケジュールを組み合わせたキャッシュフローシミュレーションを作っておくことが非常に重要です。

返済期間の設定、金利の固定・変動の選択、物件の構造(木造か鉄骨かで耐用年数が変わります)なども含めて、トータルで設計する必要があります。


節税と手残りを同時に最大化するための考え方

減価償却を使った節税設計で押さえておきたいポイントを整理すると、次のようになります。

  • 建物と土地の按分を購入時に正確に設定する(土地は減価償却できません)
  • 建物附属設備や内装など、耐用年数の短い資産を分けて計上する
  • 借入の返済期間と減価償却期間がなるべく重なるよう設計する
  • 将来の「減価償却切れ」後のキャッシュフローも必ずシミュレーションする

特に建物附属設備(電気設備・給排水設備など)は耐用年数が15年程度のものも多く、建物本体とは別に計上することで初期の節税効果を高めることができます。購入直後のこの処理を曖昧にしてしまうと、後から修正するのが難しくなるので要注意です。


不動産を使った節税は「買えばOK」ではなく、買う前の設計と、買った後の管理がセットです。減価償却という「現金を使わない経費」の性質を正しく理解して、借入返済と組み合わせた長期のキャッシュフロー設計ができると、同じ物件を買っても手元に残るお金がまったく変わってきます。

すでに不動産を保有している方も、一度「減価償却費と元金返済額の比較」を顧問税理士に確認してもらうことをおすすめします。今がどの局面にいるかを把握するだけで、次の打ち手が見えてきますよ。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。