先日、製造業を営む社長からこんな話を聞かせてもらいました。
「築25年の中古ビルを買ったんですけど、税理士から『初年度に1000万円近く経費にできますよ』と言われて、最初は何かの間違いじゃないかと思ったんですよね」
間違いではありません。これは『簡便法』という、中古物件専用の減価償却計算を使った、れっきとした節税手法です。知っている社長と知らない社長とで、手残りに大きな差が出るテーマのひとつです。
新築と中古では、減価償却のスピードがまったく違う
建物を購入すると、その取得費用は一括で経費にできるわけではありません。法定耐用年数にわたって毎年少しずつ経費に計上していく、これが減価償却の基本的な仕組みです。
鉄骨造の建物であれば、法定耐用年数は34年。新築で1億円の物件を買えば、単純計算で毎年約300万円ずつを経費にしていく形になります。34年かけて、ようやく全額を経費化できる計算です。
一方で、中古物件にはまったく別のルールが適用されます。それが『簡便法』です。
簡便法を使うと、耐用年数が劇的に短くなる
簡便法とは、中古物件を取得した際に使える、残存耐用年数を短縮計算する方法です。すでに何年も使われてきた建物には、新築と同じ耐用年数を適用するのは実態に合わない、という考え方が背景にあります。
計算式はシンプルです。法定耐用年数から、その建物がすでに経過した年数を差し引いた残存耐用年数に、経過年数の20%を加える形で算出します。
冒頭の社長のケースで当てはめると、鉄骨造・法定耐用年数34年の建物が築25年。この場合の簡便法による耐用年数は、わずか9年になります。
建物部分の取得価額を仮に9000万円とすると、9年で割るだけで毎年約1000万円の減価償却費を計上できる計算になります。新築なら300万円程度だったものが、3倍以上のスピードで経費化できるわけです。
法人税への節税効果は、数字で実感できる
毎年1000万円の減価償却費が計上できるということは、その分だけ課税所得が圧縮されます。法人実効税率をおおよそ30%とすれば、年間300万円前後の節税効果が生まれます。
9年間で累計にすると、約2700万円。これが新築との選択の差になってくるわけです。
もちろん物件の取得費や修繕コストなど、トータルで判断する必要はありますが、「中古物件は節税の観点からも有利になりやすい」という感覚は、ぜひ持っておいてほしいと思います。
ただし、この計算には落とし穴もある
簡便法は万能ではありません。注意しておきたいポイントをいくつか挙げておきます。
まず、建物と土地を一括で購入した場合、減価償却できるのは建物部分のみです。土地は減価償却の対象外になるので、契約書や固定資産税評価額をもとに適切に按分する必要があります。
また、法定耐用年数をすでに超過している物件(例えば木造で築22年超など)の場合は、別の計算式が適用されます。「法定耐用年数×20%」が耐用年数となるため、ますます短期間で経費化できるケースもあります。
さらに、減価償却費は確かに節税になりますが、将来的に物件を売却する際には注意が必要です。帳簿上の価値(簿価)が下がっている分、売却益が大きくなりやすく、その時点での課税が増えることがあります。出口戦略まで含めて計画することが大切です。
中古物件の購入を検討しているなら、今すぐ税理士と話してほしい
簡便法による耐用年数の計算は、物件の構造・築年数・取得価額の按分など、個別の条件によって結果が大きく変わります。「なんとなく節税になりそう」という感覚だけで動くと、期待していた効果が得られないこともあります。
不動産の購入を検討する段階から税理士を巻き込んで、シミュレーションをしっかり行うことをおすすめします。物件の契約後では手遅れになることもあるので、「買う前に相談する」を徹底してください。
中古物件の取得を検討しているなら、ぜひ一度、簡便法の試算を税理士に依頼してみてください。数字を見るだけで、物件選びの視点が変わるはずです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。