先日、製造業を営む社長からこんな連絡が来ました。「税理士から『今の不動産の使い方、このままだとまずいかもしれない』と言われたんですが、どういうことですか?」
詳しく話を聞くと、数年前に法人名義でビルを購入し、減価償却を使って毎年コツコツ節税してきた方でした。「何か悪いことをしているつもりはない」とおっしゃっていましたが、今回の改正は、そういう「ごく普通の不動産活用」にも影響が及ぶ可能性があります。
2026年4月、不動産節税に大きなメスが入った
今月から施行された税制改正。「また小手先の話でしょ」と流してしまいがちですが、今回は違います。法人による不動産活用スキームに関して、過去最大級の見直しが入っています。
「うちはちゃんと顧問税理士に任せているから大丈夫」——そう思っている社長こそ、一度立ち止まって確認してほしいのです。
なぜ法人の不動産節税がターゲットになったのか
法人が不動産を保有する大きなメリットのひとつが、減価償却費を経費に落とせることです。たとえば8,000万円のビルを取得すれば、毎年数百万円の経費が計上でき、その分だけ法人税を圧縮できます。
これ自体は適法で、多くの企業が活用してきた王道の節税手法です。しかし近年、意図的に損失を作り出して他の事業所得と相殺する、いわゆる「損益通算スキーム」が過剰に広まったことで、税務当局がメスを入れました。
今回の改正では、法人が保有する不動産の損失を他の利益と相殺できないケースが生じる仕組みが導入されています。
具体的に何が変わるのか
愛知県で製造業を営む田中社長(年商3億円)の例で考えてみましょう。
3年前、田中社長は法人で築15年のビルを8,000万円で取得しました。毎年240万円の減価償却費を経費に計上し、法人税を年間約82万円節税してきました。これまでのルールでは、不動産が赤字になっても、製造業の黒字と相殺して税負担を減らすことができていました。
ところが今回の改正後は、一定の要件に該当する法人不動産の損失については、その不動産から生じた所得の範囲内でしか控除できなくなるケースがあります。「製造業で黒字が出ているから、不動産の赤字で相殺して節税する」という動きに、明確な制限がかかったのです。
「まだ大丈夫」が一番危ない
「うちはそこまで大規模なスキームじゃないから」——そう思っている社長ほど、今回の改正に対して無防備なことが多いです。
改正は「悪質な節税スキームだけ」を狙い撃ちしているわけではありません。特定の要件に当てはまれば、ごく普通の不動産活用でも影響を受ける可能性があります。特に注意が必要なのは次のような状況です。
- 法人で複数の不動産を保有している
- 物件ごとに収益にバラつきがある(黒字物件と赤字物件が混在)
- 近年、節税目的で不動産投資を始めた
このどれかに当てはまるなら、今すぐ顧問税理士に現状確認を依頼してください。
減価償却の経費計上は引き続き使える
誤解を防ぐために補足しておくと、「法人で不動産を保有すること自体がNGになった」わけではありません。減価償却費を経費に計上する仕組みは引き続き有効ですし、不動産の収益の範囲内で損失を使うことも認められています。
問題になるのは「他の事業所得と意図的に損益通算する設計」であり、普通に不動産経営をしている会社がいきなり全面否認されるわけではありません。ただし、「普通に経営している」範囲の定義が変わったのが今回の改正の肝です。自分のケースがどちらに当たるか、専門家に確認するのが安全です。
今期の決算計画に直接影響する
今回の改正は2026年4月1日以降の事業年度から適用されます。遡及適用(過去の申告を遡って修正される)はありませんが、今期の決算計画や資金繰りには直接影響します。
「決算の3か月前に税理士に聞いたら間に合わなかった」という話は珍しくありません。改正初年度である今期は特に、早めに税理士と方針を確認することをおすすめします。
法人での不動産活用を続けるにしても、スキームを見直すにしても、まず「現状の自社への影響」を把握することが出発点です。「先生、うちは今回の改正で何か影響ありますか?」——この一言を、今週中に顧問税理士に送ってみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。