先日、顧問先の社長から血相を変えた電話がかかってきました。「税務調査が入って、不動産の経費が全部ダメだと言われた」と。
その社長は賃貸用マンションを3棟法人で所有していて、毎年きちんと経費計上していたつもりでした。ところが調査官がチェックしたのは、まさにその「不動産経費」の中身。結果として数百万円の追徴課税が確定しました。
不動産は節税の切り札として活用する経営者が増えています。ただ、税務署も同じことを知っていて、法人の不動産経費は調査の優先ターゲットになっています。否認されやすい3つのパターンを、実例を交えてお伝えします。
税務調査官が不動産経費を見るとき
税務調査で不動産経費が槍玉に上がる理由は単純です。「金額が大きく、かつ怪しい処理が混じりやすい」からです。
調査官は領収書を一枚ずつ確認するというより、まず全体の傾向を見ます。前年比で修繕費が急増している、管理委託料が相場より高い――そういった「異常値」を発見するのが得意です。そこから掘り下げていくのが常套手段です。
3位:修繕費と資本的支出の区分ミス
壁紙の張り替えや設備の修理は修繕費として全額その年の経費になります。一方、建物に価値を加えるようなリノベーション工事は「資本的支出」として、減価償却を通じて複数年かけて経費化しなければなりません。
問題なのは、この区分を間違えているケースです。たとえばキッチンをシステムキッチンに全面交換したり、和室を洋室に改装したりする工事を「修繕費」で一括計上してしまうパターン。税務署の実務では、おおむね60万円以上の工事や、建物の取得価額の10%を超えるような工事は資本的支出とみなされることが多いです。
「修繕費の方が今期の節税効果が大きい」という判断で強引に処理した結果、後から全額否認されると目も当てられません。工事の見積書・請求書の内容をよく確認して、判断に迷ったら保守的に資本的支出で処理する方が安全です。
2位:管理委託料の水増し
「うちの物件の管理は親族の会社に任せている」というケースはよくあります。節税目的で設立した資産管理会社への管理委託は珍しくないのですが、そこに落とし穴があります。
まず、実態があるかどうか。管理会社が実際に入居者対応・家賃収納・清掃管理などを行っていれば問題ありませんが、名前だけ貸して実務は何もしていない場合、その委託料は全額否認される可能性があります。
次に、金額の水準です。不動産管理の市場相場は賃料収入の5〜10%程度が目安です。それをはるかに超えた委託料を支払っていると「なぜこの金額なのか」という説明を求められます。合理的な根拠がなければ、超過分が否認されます。
親族間取引は特に目をつけられやすいと覚えておいてください。委託契約書・業務内容の記録・振込履歴、この3点セットは最低限準備しておきましょう。
1位:個人使用分の混入(これが圧倒的最多)
否認件数でダントツの1位がこれです。社長自身やその家族が実際に居住している部屋の費用を、法人経費として計上してしまうパターンです。
「自分が所有する物件に住んでいる」という感覚があるからか、家賃・管理費・修繕費を全て法人経費に入れてしまうケースが後を絶ちません。しかし法人所有の物件を役員が使用する場合、適正な役員社宅家賃を法人に支払っていなければ、経費算入した金額は全額否認の対象になります。
追徴課税の金額は状況によって異なりますが、数年分遡って否認されると200万円を超えるケースも珍しくありません。さらに加算税・延滞税が乗ってくると、最終的な支払額はさらに膨らみます。
「そんな大げさな」と思うかもしれませんが、このパターンはシンプルな事実確認で発覚します。物件の住民票や電気・水道の使用量を見れば、誰が住んでいるかはすぐわかります。税務調査官も慣れたものです。
決算前に1度だけ、この3点を見直してほしい
難しい話ではありません。以下の3点を確認するだけです。
- 工事費用の請求書を見て、内容が「原状回復」か「価値向上」かを確認する
- 管理委託料の比率が賃料の10%以内に収まっているかを確認する
- 役員・親族が使用する部屋の費用が法人経費に混入していないかを確認する
これを決算前に1度チェックするだけで、税務調査が入った際のリスクはかなり下がります。不動産の節税効果は本物ですが、処理の精度が低いと逆効果になりかねません。
今期中に一度、顧問税理士と一緒に不動産経費の内訳を見直してみることをおすすめします。「大丈夫だと思っていた」が一番危ない状態です。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。