先日、賃貸マンションをいくつか保有している社長から、こんな連絡がありました。「税務調査が入って、修繕費として計上していた工事がほぼ全部否認されました。追徴税額が350万円を超えています…」

状況を聞いてみると、築古マンションの外壁改修や設備入れ替えを毎年100〜200万円ほど経費計上していたとのこと。本人からすれば「維持・補修のための出費」のつもりだったのですが、調査官には「資産価値を高める工事」と判断されてしまいました。

修繕費か資本的支出か。この線引きがすべて

不動産経費のなかで、税務調査官がもっとも目を光らせているのが「修繕費」です。

屋根の塗り替え、外壁の補修、設備の交換……これらは「原状回復・維持管理」を目的とするなら修繕費として全額その年の経費になります。ところが「機能向上・資産価値の増加」と判断されると「資本的支出」として減価償却が必要になり、今期の経費計上額は一気に減ってしまいます。

問題は、この区分が非常にグレーだということ。エアコンの「交換」は修繕費になり得ますが、「グレードアップ」は資本的支出になる。外壁塗装も「補修」か「仕様向上」かで判断が分かれます。調査官の解釈次第で結論が変わることも珍しくないのです。

「60万円」と「取得価額の10%」を覚えておく

税法上、修繕費として全額計上できる安全圏の目安があります。

一回の工事金額が60万円未満、または建物の取得価額の10%以下であれば、修繕費として認められやすいとされています。これを超えると「資本的支出では?」と調査官に目をつけられる確率が上がります。

2,000万円で取得した建物なら、10%の200万円が一つの目安です。300万円の外壁塗装であれば、この基準を超えるため要注意。工事内容によっては修繕費と資本的支出を按分できるケースもあるので、金額が大きい工事は事前に税理士と区分を整理しておくことが重要です。

プライベート旅行を「視察」と言い張るのも一発アウト

もう一つよく否認されるのが、「視察名目の旅費」です。

不動産オーナーの方でよく聞くのが、家族旅行で訪れた地方の観光地で「物件を見てきた」と言い張るパターン。調査官はこういった経費計上には非常に厳しく、訪問日・物件名・目的・実際に検討した内容を示す記録が不十分だと、まとめて否認されます。

「本当に見に行ったんですが…」という言い訳は通りません。記録がなければ、証明のしようがないのです。

否認された後の追徴税額の重さ

怖いのは、否認されたときに本税だけでなく「加算税」も課されることです。

単純な計上ミスなら過少申告加算税10〜15%。さらに税務署が「仮装・隠蔽があった」と判断すると、**重加算税35%**が上乗せされます。

たとえば修繕費200万円が否認されて、実効税率30%なら本税60万円。これに過少申告加算税15%が乗ると、追徴総額は69万円。重加算税が適用されると81万円です。複数年にわたって否認されると、一気に数百万円の追徴になる社長も少なくありません。

記録を残すことが最大の防衛策

では対策は何か。シンプルに言えば「記録の徹底」です。

修繕工事であれば、業者からの見積書・工事明細・写真を必ず保管してください。「なぜこの工事が必要だったのか(原状回復の目的)」を一言メモでも残しておくと、後から説明しやすくなります。視察であれば、訪問日・物件名・商談相手・検討内容をメモとして残す。

これだけで、調査官の疑念はかなり薄まります。「記録がある人は用意周到な人」と見られ、それ以上深追いされないケースも多いのです。


不動産を多く持っている方ほど、修繕費の積み重ねが大きくなりがちです。決算が終わって「今期は問題ない」と思っていても、数年分をまとめて調査されることは珍しくありません。60万円を超える工事が出てきたら、その都度税理士に相談する習慣をつけておくと、いざというときに慌てずに済みますよ。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。