先日、税務調査が終わったばかりの社長から連絡がありました。

「修繕費だけじゃなく、自宅の家賃まで一部否認されて、追徴が300万円を超えそうです。正直、こんなことになるとは思っていなかった」

声のトーンが沈んでいたのが印象的でした。悪意があったわけではなく、ずっとそういうやり方でやってきたというのです。不動産を保有している社長なら、まったく同じリスクを抱えているケースが少なくありません。

不動産経費は「後から確認できるか」が命

税務調査官が不動産経費を見るとき、最初に確認するのは「この経費は事業と本当に対応しているか」という点です。

金額が大きくなりやすく、かつ私的利用との境界が曖昧になりやすい。不動産経費はその2点を満たすため、調査官が注目しやすい項目のひとつです。「うちの経理はちゃんとやっている」という感覚があっても、3つの落とし穴のどれかにはまっていることがあります。

落とし穴① 修繕費として全額落としていた

最も多い否認理由は、修繕費の過大計上です。

屋根の葺き替え、外壁の全面塗装、エントランスのリニューアル工事——こうした費用を「修繕費」として全額その年に処理しているケースがあります。しかし税務上、一括で損金処理できるのは「原状回復」に該当する工事だけです。物件の価値を高めたり耐用年数を延ばしたりする工事は「資本的支出」として扱い、減価償却を通じて複数年で経費化しなければなりません。

たとえば280万円の外壁工事でも、「劣化した部分を元の状態に戻した」のか「断熱材を追加して性能を上げた」のかによって、処理方法がまったく変わります。税務調査では見積書や請求書の内容、工事写真まで確認されることがあります。

目安として、1件の工事が20万円を超えるようであれば、処理前に税理士に確認する習慣をつけておくと安全です。

落とし穴② 按分の計算根拠を持っていなかった

次に多いのが、自宅兼事務所の按分問題です。

自宅の一部を法人の事務所として使っている場合、家賃や水道光熱費の一部を法人経費にすることは認められています。ただし「一部」というのがポイントで、その割合を合理的な根拠で示せなければなりません。

「とりあえず半分計上している」「社長が言ったから50%にした」——こういったケースで税務調査が入ると、「なぜその割合なのか根拠を見せてください」と必ず聞かれます。書類がなければ全額否認されることもあります。ゼロかイチかの問題です。

実務では、物件の間取り図に使用スペースを書き込んで面積比率を計算した資料を作り、さらに週あたりの使用時間の記録を残しておくのが基本です。一度作れば毎期使い回せるので、今から整備しておく価値は十分あります。

落とし穴③ 空室・私的利用物件の費用を計上していた

3つ目は、入居者がいない期間や社長が私的に使っている物件の費用計上です。

賃貸物件に入居者がいない期間の管理費や修繕費は、「賃貸事業との対応関係が不明確」として否認対象になりえます。「将来の賃貸に備えて維持している」という説明が通る場合もありますが、長期間空室が続いているなら厳しい目で見られます。

また、週末に社長が使うリゾート物件の費用を法人で全額計上しているケースも注意が必要です。「社長への福利厚生」や「接待目的」という建前でも、実態として私的利用が中心であれば否認リスクは高くなります。稼働率の記録や利用目的の管理台帳を残しておくことが、こうした物件を守る最低限の手立てです。

3つが重なると、追徴は一気に膨らむ

修繕費の否認で法人税が80万円、按分否認で60万円、空室物件の否認で30万円——それぞれ単発では大きな問題に見えなくても、複数の論点が重なると話が変わります。

本税に過少申告加算税(10〜15%)と延滞税が上乗せされると、最終的な支払額は予想をはるかに上回ることになります。「知らなかった」「うちの税理士に任せていた」では、追徴を免れることはできません。

不動産を保有している社長は、まず今期の修繕工事の内訳書類が揃っているか、自宅按分の計算根拠が残っているか、この2点だけでも確認してみてください。税務調査は「来たときに準備すればいい」ではなく、日頃の記録が唯一の防衛線になります。保有物件が増えるほど、そのリスクは比例して大きくなると思っておいたほうが現実的です。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。