先日、ある製造業の社長から電話がかかってきました。「7月に法人で1億円のビルを買ったんですけど、税理士に『節税効果が薄い』って言われて。どういうことでしょうか?」
物件を取得したこと自体は、まったく間違いではありません。ただ、取得した月が3ヶ月ずれていたせいで、初年度の節税効果は4分の3に目減りしていました。節税を目的に1億円の決断をしたのに、タイミング一つでこれほど差が出るとは——と、社長は深くため息をついていました。
「いつ買うか」が「何を買うか」と同じくらい重要だという話を、今日は具体的な数字でお伝えします。
減価償却は「残り月数」しか使えない
法人が建物を取得すると、建物部分は減価償却として毎年損金に算入できます。ただし、取得した事業年度については、取得月から期末月までの月数分しか計上できません。年間の減価償却額がいくら大きくても、期末直前に取得すれば1ヶ月分しか使えないのです。
3月決算の法人を例に考えてみましょう。年間の建物減価償却が300万円の物件を取得した場合——
- 4月取得:12ヶ月分 = 300万円
- 7月取得:9ヶ月分 = 225万円
- 10月取得:6ヶ月分 = 150万円
- 1月取得:3ヶ月分 = 75万円
取得月が1ヶ月ずれるだけで、25万円の損金が消えていきます。実効税率34%で計算すると、4月取得と7月取得の差は税負担にして約25万円。物件の中身は何も変わらないのに、「いつ買うか」だけでこの差が生まれるのです。
役員報酬の改定月と合わせると「ダブル圧縮」が完成する
さらに知っておいてほしいのが、役員報酬の改定月との組み合わせです。
法人の役員報酬は、原則として事業年度開始から3ヶ月以内にしか変更できません(定期同額給与の要件)。3月決算の法人なら、4月・5月・6月が改定のチャンスです。この期間を逃すと、1年間は報酬額を変えられなくなります。
役員報酬を増額したとき、増額分は改定した月から損金になります。4月に増額すれば、4月から翌3月までの12ヶ月分が損金算入の対象です。
ここで、不動産取得のタイミングを役員報酬の改定月に合わせると何が起きるか。
- 役員報酬の増額分:12ヶ月分がまるごと損金
- 不動産の減価償却:12ヶ月分がまるごと損金
この二つが同時に成立する状態——これが「ダブル圧縮」です。逆に役員報酬を4月に改定して、不動産は7月に取得した場合、報酬増額の恩恵はフルに受けられても、減価償却は9ヶ月分に目減りします。両方を最大化するには、同じ月に動くことが鍵なのです。
実際にいくらの差になるのか
先ほどの例で試算してみましょう。3月決算、年間減価償却300万円の物件を取得。役員報酬は月10万円増額(年120万円増)とします。
4月取得の場合: 減価償却300万円+役員報酬増額分120万円=損金合計420万円。実効税率34%で約143万円の税負担軽減効果になります。
7月取得の場合: 減価償却225万円+役員報酬増額分120万円=損金合計345万円。税負担軽減効果は約117万円です。
その差は約25万円。同じ物件を同じ値段で買ったのに、取得月だけで初年度の節税額がこれだけ変わります。
「取得月」を今すぐスケジュールに組み込む
不動産投資の意思決定では、どうしても利回りや立地が主役になりがちです。もちろん、それらは外せない判断軸です。ただ節税目的で法人不動産を検討しているなら、「いつ取得するか」を物件選びと同じ優先度で考えてほしいのです。
実務的には、こんな順番で動くのが理想です。まず決算月と役員報酬の改定可能期間(事業年度開始後1〜3ヶ月以内)を確認する。次に、その改定月に間に合うよう物件探しと資金調達を逆算で進める。そして税理士と購入スケジュールを事前に共有しておく。
たったこれだけで、初年度の節税効果は大きく変わります。「来期こそは改定月に取得する」という意識を持つだけで十分です。まだ役員報酬の改定タイミングと不動産取得を連動させていないなら、次の事業年度が始まる前に、一度税理士と作戦を立てておくのをおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。