役員報酬を上げようとしている社長に、少し待ってほしいことがあります。
先日、年商3億円の建設業の社長からこんな相談を受けました。「今期は利益が出たから、自分の報酬を月50万円上げようと思っている。老後の備えにもなるし、ちょうどいいかと」と。
計算してみると、年間600万円の増額に対して、実際に手元に残るのは270万円ほど。残りの330万円以上は所得税と住民税に持っていかれる計算でした。その社長は「半分以上が税金に消えるなら、何のために稼いでいるのかわからない」と苦笑いしていました。
報酬を上げると、増額分の半分以上が消える
年収1,000万円を超えている社長なら、追加で受け取る報酬への税率はかなり重くなります。
所得税の最高税率は45%、住民税は一律10%。合計すると55%です。つまり役員報酬として100万円多く受け取っても、手元に残るのは45万円しかありません。
「利益が出たから報酬を増やそう」という発想は自然ですが、節税どころか税負担を膨らませる結果になってしまいます。
法人で不動産を買うと、税率が一気に下がる
同じ資金を使うにしても、法人名義で不動産を購入した場合はまったく話が変わります。
法人が不動産を持つと、建物部分の減価償却費を毎年経費として計上できます。木造なら22年、RC造なら47年をかけて償却していくのですが、この金額が法人の利益を直接圧縮してくれます。
法人の実効税率は、課税所得800万円超でおよそ34%。個人の最高税率55%と比べると、税率差は21ポイントにもなります。
仮に毎年1,000万円を手元に残したいとします。個人報酬で受け取ろうとすると、約1,667万円の報酬が必要です。一方、法人の不動産収益として積み上げるなら、約1,515万円の収益で1,000万円が残ります。同じゴールでも、年間150万円以上の違いが生まれてくるわけです。
なぜ「報酬より先に不動産」なのか
ここで大事になるのが、順番です。
先に役員報酬を増やしてしまうと、その増額分はすべて個人の高税率で課税されます。ところが、先に法人で不動産を購入して減価償却費を積み上げておくと、法人税の節税が先に効いてきます。
さらに、法人の利益をある程度コントロールできるようになることで、「この範囲なら役員報酬を出せる」という設計もしやすくなります。報酬額と不動産購入のタイミングを連動させることで、トータルの税負担を抑えられるわけです。逆に順番を間違えると、本来得られたはずの税率差がそのまま損失になります。
不動産購入には注意点もある
もちろん、法人不動産戦略には気をつけるべき点もあります。
空室リスクや修繕費など、実際の運用コストは節税計算とは別に考える必要があります。節税効果ばかりに目が行って、利回りの低い物件をつかんでしまうと元も子もありません。
また、法人に不動産が積み上がると、将来の事業承継や株式評価にも影響が出ます。自社株の評価額が上がることもあるため、出口まで含めた長期設計が必要です。
役員報酬の変更については、原則として期首から3ヶ月以内に決める縛りもあります。期中に変更すると損金不算入になるリスクがあるため、タイミングも重要です。
「どうせ税金に消える」と諦める前に
報酬を増やしても半分が税金に消える——このもどかしさは、多くの社長が感じていることだと思います。
ただ、法人という器をうまく使えば、同じ資金でも受け取り方によって結果は大きく変わります。不動産はあくまで手段のひとつですが、「いつ・どの順番で・何を組み合わせるか」という設計次第で、年間200万円単位の差が出てきます。
役員報酬を上げたいと思ったとき、まず税理士に「法人で不動産を先に買う選択肢はどうか」と聞いてみてください。その一言が、長年の税負担を大きく変えるきっかけになるかもしれません。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。