先日、関西で工場を経営している50代の社長から、こんな相談を受けました。

「毎月30万円の家賃を給料から払っているんですが、なんかもったいない気がして。何かいい方法ありますか?」

この質問に対する答えは、実はかなりシンプルです。会社に物件を借りてもらい、そこに住む——これだけで、その家賃がほぼ丸ごと法人の経費になります。

これが「役員社宅制度」です。知っている方には当たり前の話ですが、意外と使っていない社長が多いのが現実です。

手取りを1円も減らさず、法人の税負担を下げる

結論から言うと、役員社宅制度の肝は「個人負担を最小化しながら、法人の経費を最大化する」点にあります。

仕組みはこうです。法人が賃貸契約を結び、役員(=社長)がそこに住みます。法人が支払う家賃は全額損金——つまり法人の経費として計上できます。

一方、役員は何も払わなくていいのかというと、そうではありません。国税庁の通達で定められた「賃貸料相当額」と呼ばれる金額を、毎月会社に支払う必要があります。

ただし、この賃貸料相当額が制度のミソです。計算式は床面積や固定資産税評価額をもとに算出されるため、実際の家賃と比べてかなり小さい金額になることが多い。月30万円の物件でも、役員の自己負担は数万円程度で済むケースが珍しくありません。

年140万円の節税効果はどこから来るのか

具体的な数字で考えてみましょう。

月30万円の賃貸物件を会社名義で契約したとします。年間の家賃支払いは360万円。これが全額、法人の損金に算入されます。

法人の実効税率はおおむね34%前後。360万円 × 34% = 約122万〜140万円が節税効果として計算されます。

個人で払い続けていたら、手取りから出て行くだけです。しかも個人の家賃は、どれだけ払っても経費にはなりません。法人を通すだけで、同じ生活水準を保ちながら税負担だけが下がる——これが社宅制度の本質的な価値です。

賃貸料相当額の計算、どうやるの?

この制度で唯一ハードルになるのが、賃貸料相当額の計算です。国税庁の通達に基づく算式は、物件の種類によって異なります。

一般的な木造・軽量鉄骨の小規模住宅(床面積132㎡以下)の場合、固定資産税評価額と床面積をもとにした計算式が適用されます。大型物件や豪華住宅に該当すると別の計算式になり、自己負担額が増えます。

ひとつ覚えておいてほしいのは、「住宅の実勢家賃が高いほど、節税効果は大きくなる傾向がある」という点です。都心の高額物件ほど、実際の家賃と賃貸料相当額のギャップが広がりやすい。つまり、家賃が高い物件に住んでいる社長ほど、この制度の恩恵を受けやすいわけです。

運用で失敗しないための2つのポイント

節税効果の高い制度ですが、運用には注意が必要です。

ひとつ目は、契約名義を必ず法人にすること。個人名義のまま「会社のお金で払っている」では社宅制度として認められません。法人が直接貸主と賃貸契約を結ぶのが大前提です。既存の個人契約を法人に切り替える場合は、更新タイミングが動きやすいです。

ふたつ目は、賃貸料相当額を毎月きちんと徴収すること。役員が一切払わないと、家賃全額が役員への経済的利益(=給与)と認定されるリスクがあります。少額であっても、ルールに沿って徴収している実態を作ることが重要です。


まだ個人名義で家賃を払い続けているなら、今期中に社宅制度への切り替えを検討してみてください。物件の契約更新タイミングか、引っ越しのタイミングが一番スムーズに動けます。担当の税理士に「うちの物件で社宅制度を使えますか?」と一言聞くだけで、選択肢が見えてきます。計算式は物件ごとに異なりますが、試算してもらう価値は十分あります。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。