先日、顧問先の社長からこんな話を聞きました。「去年、報酬を月100万から85万に下げたんですよ。所得税はたしかに減りました」と。

決算書を眺めながら、私はこう思いました。惜しい。まだ半分しか取れていない、と。

報酬を見直すのは正しい一手です。でも、そこで止まってしまうと、毎年数百万円の節税余地を見逃し続けることになります。

役員報酬の最適化は「入り口」に過ぎない

役員報酬の最適化でやることは、大きく2つです。

所得税・住民税の税率が大きく跳ね上がるポイントの手前で報酬の上限を設定すること。そして社会保険料の等級テーブルを確認して、負担が急増するラインを避けること。

この2点を押さえるだけで、個人の手取りはかなり改善します。ただ、その結果として「法人に残った利益をどう扱うか」という次の問題が生まれます。

法人税を払って内部留保するだけでは、折角の資金が眠り続けます。そこに2段階目の打ち手があります。

法人で物件を借りて「役員社宅」にする

法人が賃貸物件を契約し、役員が社宅として住む。これが2段階目の核心です。

仕組みはシンプルです。法人が月30万円の家賃を払い、役員は「一定の自己負担額」だけを会社に支払う。差額は法人の経費になります。

具体例で見てみましょう。月家賃30万円の物件で、国税庁通達に基づいて計算した役員自己負担が月4万円だとします。差額の26万円は法人経費。年間312万円が法人の課税所得から外れます。

さらに役員報酬の最適化で浮いた分を合算すると、合計で年400万円規模の差が出るケースは珍しくありません。

手取りで考えると、その差はもっと大きい

税引き前の感覚で考えると、さらに差が際立ちます。

月30万円の家賃を個人で払うには、所得税・社会保険料を引いた後の手取りから出すことになります。実効税率40%超のゾーンにいる社長なら、30万円を手元に残すために、稼ぎとして50万円近く必要な計算です。

一方、法人経由の社宅なら、自己負担の4万円だけ払えば残りは会社持ち。同じ生活水準を維持しながら、使えるお金が増える。それがこのスキームの本質です。

「自己負担をゼロにすればいい」は落とし穴

ここで必ず聞かれるのが「自己負担を限界まで下げればいいのでは?」という疑問です。

答えはNOです。役員が会社に支払う自己負担額を低く設定しすぎると、差額が「現物給与」とみなされ、所得税の対象になります。

自己負担の下限は、国税庁の通達に定められた計算式で決まります。物件の床面積や固定資産税評価額を使って算出するため、月家賃の「何割」とは一概に言えません。同じ家賃でも築年数や所在地によって計算結果が変わります。

「家賃の10%払えば問題ない」という話が一人歩きしているケースがありますが、これは誤解です。正確な数字は物件ごとに試算が必要で、間違えると税務調査で否認されるリスクがあります。

動くなら「試算」を先に依頼する

この2段階の節税を実行する順番は重要です。

まず役員報酬の水準を決める。次に報酬水準と法人の利益規模から、どの程度の社宅を法人契約するのが最適かを計算する。物件を探すのはその後です。

気に入った物件を先に見つけてから「これで節税できますか?」と持ち込むパターンが多いのですが、先に物件ありきだと最適な数字にならないケースがあります。

「役員社宅の自己負担額の試算をお願いしたい」と税理士に依頼すれば、物件候補をいくつか挙げながら比較シミュレーションを出してもらえます。固定資産税評価額の取得から始まる専門的な作業なので、自分で計算しようとするよりずっとスムーズです。


まだ役員報酬だけ見直している段階なら、次のステップとして「社宅スキームの試算」を税理士に依頼してみてください。数字を見て「なんでもっと早くやらなかったんだろう」という声は、本当によく聞きます。節税は始めるタイミングが早いほど有利です。今期中に動いておくことをお勧めします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。