先日、不動産法人を運営するある社長から連絡が入りました。「税務署から調査の通知が来た。修繕費を全部否認されたらどうしよう」と、声が少し震えていました。

収益物件3棟に毎年300〜500万円の修繕費を計上していた事実は変わりません。それでも結果は、修正申告なし・追徴ゼロ。なぜそんな結末を迎えられたのか、今日はその「書類術」をお話しします。

税務調査で必ずマークされる「修繕費」という項目

法人で不動産を持っている社長にとって、修繕費は大きな節税の武器になります。建物の維持管理に使ったお金を費用として計上できるからです。

ただ、税務調査官の目から見ると、修繕費は「本当に修繕なのか、それとも資本的支出(改良費として減価償却すべきもの)なのか」が常に疑問として浮かぶ項目です。毎年数百万円規模で計上していれば、当然マークされます。

その社長の場合、年間家賃収入は2,000万円規模の法人でした。修繕費300〜500万円は収益に対して決して小さくない金額です。調査官が確認したいと思うのは、ある意味で自然なことでもあります。

結論:書類3点セットが命運を分けた

調査当日、その社長が準備していたのは次の3種類の書類です。

①修繕前後の写真付き工事記録 施工前と施工後の写真を日付入りで保管し、どのような劣化があり、何を直したかを記録したものです。「外壁のひび割れを補修した」という言葉だけでなく、目で見てわかる証拠が揃っていました。

②業者の見積書・請求書・振込明細のセット 工事を依頼した業者の見積書、工事完了後の請求書、そして実際に振り込んだ明細。この3点が物件ごとに揃っていると、「架空計上ではない」という証明になります。

③物件別の損益管理台帳 どの物件にいくらの修繕費をかけたか、年間の収支はどうだったかを物件単位で管理した記録です。「3棟まとめて管理していた」ではなく、物件ごとに数字が追えることが重要でした。

この3点が揃っていたことで、調査官は修繕費の正当性をその場で確認できました。「この工事が修繕か資本的支出か」という議論にすらならなかったそうです。

書類がなければ、加算税が怖い

税務調査で書類が揃っていない場合、経費が否認されることがあります。その際に問題になるのが加算税です。

書類が整っていて、計上の仕方に善意の誤りがあったと認められれば、過少申告加算税(10〜15%)で済む可能性があります。一方、「仮装隠蔽あり」と認定されると重加算税(35〜40%)が課せられます。

仮に修繕費500万円が否認されて法人税等40%で計算すると追徴税額200万円。さらに重加算税35%がのると70万円が加算され、合計270万円規模の支払いが発生するケースもあります。書類があるかないか、それだけでこれだけの差が生まれます。

後からは絶対に作れない

ここで強調しておきたいのが「後から作るのは不可能」という点です。工事が終わって2年後に「写真を撮っておけばよかった」と思っても、もう手遅れです。

次の修繕が発生したときに、①工事前後の写真、②業者書類一式、③物件別の台帳記録、この3点を揃える習慣をつけることから始めてみてください。

既に修繕費を計上している物件があるなら、過去のものを遡れる範囲で整理しておくだけでも、万が一の調査への備えになります。法人で不動産を持っているなら、書類整備は節税の入り口です。今期中に税理士と一緒に「調査に耐える書類体制」を整えておくことをおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。