「税務調査が入って、あの工事費が全部資本的支出だと言われました」——先日、都内で賃貸マンションを数棟保有している社長から、こんな連絡が入りました。申告のやり直しで追徴税額は数百万円。「まさか否認されるとは思っていなかった」と、声が沈んでいました。
不動産を法人で持つことで節税になる、というのはよく聞く話です。ただ、やり方を間違えると税務調査で経費を丸ごと否認されます。今回は、実際に否認されやすい3つのポイントをお伝えします。
修繕費の「60万円ルール」を知らないと危ない
建物の外壁塗装や内装リフォームをしたとき、それを修繕費として全額経費にしている会社は多いです。ところが、税務署はそれを「資本的支出」と判断することがあります。
目安となるのは2つの条件です。支出額が60万円を超えていること、かつその金額が前期末の取得価額の10%を超えていること——この両方に当てはまると、「修繕費ではなく建物の価値を高める支出だ」と判定されやすくなります。
修繕費なら全額その年に経費にできますが、資本的支出だと減価償却で何十年かかけて経費にするしかありません。つまり、その年の節税効果がほぼ消えてしまう。
「工事の請求書に修繕費と書いてあるから大丈夫」と思っていると痛い目に遭います。名称より実態で判断されます。金額が大きくなるときは、着工前に税理士と相談して修繕費か資本的支出かを整理しておくことが重要です。
役員社宅の家賃、「○%ルール」は通用しない
役員が会社所有の物件に住む「役員社宅」は、うまく使えば節税効果の高い仕組みです。ただ、家賃の設定を間違えると、差額が丸ごと「役員給与」として課税されます。
よくある勘違いが、「市場家賃の50%を払えばいい」とか「固定資産税の3倍にする」といった固定割合の使い回しです。実は税務署が認める計算式は決まっていて、固定資産税評価額をベースにした算式で算出する必要があります。
その金額を下回る家賃しか払っていない場合、差額が給与認定され、所得税と社会保険料の追加負担が発生します。「ずっとこれでやってきた」という会社ほど要注意です。何年分もさかのぼって課税される可能性があります。
社宅規程と計算根拠の書類を整備しておくことが、調査対策の基本になります。
法人で不動産を買っても、3年以内は節税にならない
相続対策として法人で不動産を買う方もいますが、ここに意外な落とし穴があります。
通常、不動産を相続財産として評価するときは「路線価」を使います。市場価格の7〜8割程度の評価になるため、現金で持つより評価額を下げる効果があります。ところが、法人が取得してから3年以内に相続が発生した場合、路線価評価ではなく「時価」で評価されます。
つまり、買ったばかりの不動産は、現金で持っているのと評価額がほとんど変わらない。相続税の圧縮効果がゼロになってしまうのです。
「法人に移してすぐ相続対策になる」と思っていると、取得後3年以内に相続が発生したとき、期待していた節税効果が得られません。体調や年齢も考慮しながら、タイミングを計画的に設計することが大切です。
「今の状況」を確認することから始めてください
修繕費の区分、役員社宅の家賃計算、不動産取得のタイミング——この3つは、どれも「やってしまってから気づく」ことが多いポイントです。税務調査が来てから対応しようとしても、そのときにはもう手遅れです。
今期に大きな修繕工事を予定しているなら着工前に相談を。役員社宅の家賃を感覚で決めているなら今すぐ計算式を確認を。法人での不動産購入を計画しているなら、相続との時間軸を整理することから始めてください。
節税の話は「やれること」よりも「やってはいけないこと」を押さえる方が、長い目で見ると損をしません。心当たりのある項目があれば、決算前に一度税理士に現状を見せることをおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。