先日、年商2億円ほどの製造業の社長から、こんな相談を受けました。
「先生、法人の名義でアパートを買ったんですが、決算書を見てもまったく税金が変わっていないんです。なぜでしょうか?」
話を聞いてみると、その社長は毎月180万円の役員報酬を受け取っていました。売上からそれだけの額が費用として出ていくため、法人の利益はほぼゼロ。当然、法人税もほとんど発生していません。
でも、それが問題の根っこでした。
不動産節税は「利益にぶつける」仕組み
不動産を法人で購入すると、建物部分を数年間にわたって費用として計上できます。これが減価償却費です。たとえば中古アパートなら、短い耐用年数で多額の減価償却費が生まれることもあります。
ただし、この仕組みが節税として機能するのは、「法人にきちんと利益がある」ことが大前提です。
減価償却費は法人の課税所得から差し引かれます。課税所得がゼロの状態では、どれだけ減価償却費を計上しても節税効果はゼロ。赤字が増えるだけという、むしろ厄介な結果になってしまいます。
先ほどの社長が「不動産を買ったのに税金が変わらない」と感じたのは、まさにこういうことだったのです。
役員報酬が高すぎると機会を失う
「でも役員報酬を高くすれば、個人の手取りが増えるから別にいいんじゃないか?」
そう思う方もいるかもしれません。ただ、ここに大きな落とし穴があります。
個人の所得税・住民税の合計税率は、収入が上がるほど重くなります。年収2,000万円を超えると55%前後という水準になることも珍しくありません。一方、中小法人の実効税率はおよそ23%前後です。
この差が、法人を使った節税の根幹です。役員報酬を高くしすぎて法人に利益を残さないということは、この税率差を活用するチャンスを自ら手放しているようなものです。
月30万円の調整が年300万円を変える
では、どうすればいいか。
一つの考え方として、役員報酬を月30万円引き下げることを検討してみてください。年間にすると360万円が法人の利益として残ります。
この360万円に不動産の減価償却費をぶつけると、個人で課税された場合との税率差(仮に32ポイントとすると)が節税として現れます。360万円×32%で約115万円。
さらに不動産の規模や取得年度によっては、減価償却費が年間数百万円に達することもあります。役員報酬の調整と不動産をうまく組み合わせれば、年間で300万円前後の節税効果が見えてくることも十分あり得ます。
もちろん数字は個々の状況によって大きく異なります。ここでお伝えしているのは、あくまで「仕組みとしての考え方」です。
「3ヶ月以内」を絶対に逃すな
ここで、絶対に知っておいてほしいことが一つあります。
役員報酬の改定は、原則として事業年度開始後3ヶ月以内に行わなければなりません。
この期間を過ぎてから報酬を変更すると、税務上「定期同額給与」の要件を満たさず、変更分が法人の損金(費用)として認められなくなる可能性があります。「来月から役員報酬を下げよう」と9月に思い立っても、3月決算であれば6月末がとっくに過ぎています。来期の4〜6月まで、1年近く待つしかありません。
役員報酬の設定は、年に一度のチャンスです。タイミングを見誤ると、次に動けるのは12ヶ月後になります。
今すぐ確認してほしいこと
不動産節税は、買えば自動的に節税になる仕組みではありません。法人に適切な利益を残し、そこに減価償却費をぶつけることで初めて機能します。
もし「うちの法人は毎期ほぼ利益ゼロだ」という状況なら、まず役員報酬の設定見直しが先です。減価償却を活かせる土台を作ってから、不動産購入を検討するのが正しい順番です。
決算期が迫ってから「しまった」では遅い。今期の事業年度開始からまだ3ヶ月以内の方は、いますぐ税理士に相談することをおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。