先日、都内でオフィスビルを1棟保有している社長から、こんな話を聞きました。「毎年それなりに維持費がかかっているんですが、どこまで経費になっているか、正直把握できていなくて……」

これ、意外と多い話なんです。法人名義で不動産を持っているのに、維持費の処理が中途半端になっていて、毎年かなりの節税チャンスを逃してしまっているケースが少なくありません。

法人で不動産を持つと、3つの維持費が丸ごと経費になる

法人名義で不動産を所有していると、毎年かならず発生するコストが3種類あります。固定資産税管理費・修繕費火災保険料です。

この3つ、すべて法人の損金(経費)として計上できます。個人名義の場合は「不動産所得の経費」として所得を圧縮する形ですが、法人名義ならそのまま法人の利益を減らせる。この違いが、じわじわと大きな差を生んでいきます。

年間75〜100万円の節税、10年で1,000万円の差

具体的な数字で見てみましょう。固定資産税が年100万円、管理費・修繕費が年150万円、火災保険料が年50万円だとすると、合計で年間300万円の維持費になります。

これを法人経費として処理できれば、実効税率25〜34%として計算すると、年間75〜102万円の節税になります。個人保有のまま放置していたら、毎年この差が積み上がっていくわけです。

10年間で見ると、750万〜1,000万円超の差になる計算です。「どうせ経費になっているだろう」と思っていた社長でも、領収書の管理が抜けていたり、個人口座から費用を払い続けていたりすると、経費計上の根拠が薄くなってしまいます。

「修繕費」と「資本的支出」は別物として扱う

ただし、ひとつだけ注意が必要な落とし穴があります。それが修繕費と資本的支出の区別です。

壁紙の張り替えや水回りの小修繕であれば「修繕費」として全額を即時経費化できます。ところが、エレベーターの新設や建物の全面改装のような大規模工事になると、話が変わります。建物の価値や耐用年数を高めるような支出は「資本的支出」として扱われ、減価償却で複数年にわたって少しずつ経費化することになります。

判断の目安として、修繕費の総額が60万円未満か、あるいはその建物の前期末取得価額の10%以下に収まっていれば、修繕費として処理できるケースが多いです。ただし個別の事情によって判断が変わるため、実務では必ず顧問税理士に確認することをおすすめします。

経費化を確実にするための実務ポイント

経費を取りこぼさないために、日常の管理で意識しておきたいことがいくつかあります。

支払いは法人口座から、これが大前提です。社長個人の口座から維持費を払い続けていると、経費計上の証跡が曖昧になります。請求書や領収書は物件ごとに整理して保管しておくと、税務調査があってもスムーズに対応できます。

もうひとつ見落としやすいのが、長期一括払いの火災保険料です。3年・5年分をまとめて払っている場合、支払った年に全額を経費計上するのではなく、保険期間で按分して毎年計上するのが正しい処理です。一括払いの保険料をそのまま全額経費にしていると、後から指摘を受けることがあります。

個人名義のままにしている社長へ

すでに個人名義で不動産を保有している場合、法人への移転は売買や贈与のコストが伴うため、一概に「今すぐ移転すべき」とは言えません。それでも、今後新たに不動産を取得するなら、最初から法人名義にしておくだけで、維持費の経費化がシンプルになります。

現在、法人名義で不動産を持っているなら、まず「維持費が正しく経費計上されているか」を確認するところから始めてみてください。見落としが積み重なっているケースは想像以上に多く、決算前の今がちょうど見直しのタイミングです。毎年捨てている経費がないか、一度洗い出してみる価値はあります。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。