先日、製造業を営む社長からこんな相談を受けました。
「毎年、工場の固定資産税を個人の口座から払ってるんですけど、これって何かできますか?」
その一言で、私はすぐに気づきました。これは典型的な「もったいない」パターンです。
個人名義の不動産は、気づかない損失を生み続けている
会社で使っているオフィスや工場が、実は社長個人の名義になっているケースは珍しくありません。創業当初に個人で購入した物件をそのまま使い続けている、というのがよくある経緯です。
問題は、個人名義のままだと、固定資産税は「個人の支出」として扱われること。法人の帳簿には乗りません。どれだけ事業で使っている建物でも、個人払いのままでは経費になりません。
年間100万円の固定資産税を10年払い続けたとしたら、1,000万円が丸々経費になっていないことになります。実効税率30%として計算すると、300万円の節税機会を逃したことになる。これはじわじわ効いてくるダメージです。
法人名義にするだけで、全額損金になる
では、どうすればいいか。答えはシンプルで、その建物を法人名義に変えることです。
法人が所有する不動産にかかる固定資産税は、全額「損金算入」できます。つまり、法人の経費として計上できるということです。
先ほどの例で言えば、年間100万円の固定資産税が全額経費になる。実効税率が約30%なら、年間30万円の節税効果が生まれます。10年続ければ300万円の差です。複利的な観点で見ると、この差はもっと大きくなります。
固定資産税だけではありません。建物が法人所有になれば、その建物に関わる維持費・修繕費・保険料なども法人経費として計上できるようになります。
ただし、法人化には一度きりのコストがかかる
「じゃあすぐ移そう」となる前に、一つ大切な話があります。
個人から法人へ不動産を移すには、不動産取得税や登録免許税、場合によっては譲渡所得税がかかることがあります。移転コストを回収するのに何年かかるか、を先に計算しておく必要があります。
固定資産税が年間30万円の節税になるとして、移転コストが150万円かかるなら、5年で回収できる計算です。その物件をあと何年使うか、というビジョンとセットで判断するのが正解です。
判断のポイントをまとめると:
- 現在の固定資産税の年間額はいくらか
- 実効税率をかけた節税額は年いくらになるか
- 移転にかかる諸費用(登録免許税・不動産取得税・司法書士費用など)の合計はいくらか
- 何年で回収できるか
この4点を整理するだけで、やるべきかどうかの判断はかなり明確になります。
家賃という選択肢もある
名義変更のコストが重い場合、別の方法もあります。
個人所有のまま、法人に「賃貸」するやり方です。法人が社長個人に適正な家賃を払い、その家賃を法人の経費にする。固定資産税の全額経費化とは異なりますが、実質的な税負担を減らす効果があります。
ただし、家賃は「適正額」でなければなりません。周辺相場より著しく高い家賃を設定すると、税務調査で否認されるリスクがあります。近隣の賃料相場を調べたうえで設定することが大前提です。
まだ個人払いを続けているなら、今期中に動いてほしい
固定資産税は毎年5月前後に一括または分割で納付します。今年分がすでに個人口座から払われていたとしても、来年以降の分を変えるための準備は今からできます。
「うちの工場、そういえば個人名義だったな」と思い当たる社長は、ぜひ一度、直近の固定資産税の納税通知書を引っ張り出してみてください。年間いくら払っているかを確認するだけで、節税の規模感がつかめます。
数字が大きければ大きいほど、動く価値があります。法人化・名義変更・法人への賃貸——どの方法が自社に合うかは、個別の状況によって変わります。顧問税理士に相談するときは、「固定資産税の年額」と「その物件をあと何年使うか」という2点を伝えると、話が早く進みます。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。