先日、年商2億円の不動産会社を経営する社長から、こんな話を聞きました。
「税理士に役員社宅の話を聞いてはいたんですよ。でも面倒くさそうで、ずっと後回しにしていて」
家賃は毎月20万円。個人の口座から5年以上払い続けているそうです。「後回し」のツケがいくらになるか、一緒に計算してみると、社長の顔色が変わりました。
法人で借りて、役員が住む。それだけの話
仕組み自体はシンプルです。法人名義でマンションを借り上げ、そこに役員が住む。これが「役員社宅」の基本形です。
重要なのは、役員が法人に支払う「賃料相当額」の算出方法にあります。国税庁の通達で計算方式が定められており、実際の家賃とはかけ離れた金額になるケースがほとんどです。固定資産税評価額や床面積をもとに算出するため、月20万円の物件でも賃料相当額は数万円程度に収まることが多い。
役員は毎月その数万円だけ法人に払えばよく、法人は賃料20万円を全額損金にできます。その差額が、毎月積み上がっていくわけです。
年200万円の差額が生む節税効果
月17万円の差額が経費になれば、年間で204万円の損金増加。実効税率を30%として計算すると、法人税の節税効果は約60万円になります。
節税額=経費増加額×実効税率、という計算構造は押さえておいてください。「200万円が節税できる」ではなく、「200万円を経費にした結果、約60万円の税負担が減る」というのが正確な理解です。
60万円。毎年コンスタントに浮いてくる金額としては、決して小さくない。10年続ければ600万円です。個人で家賃を払い続けるということは、課税済みの手取りから支出しているということ。役員社宅に切り替えた場合と比べると、実質的な手元資金の差は想像以上に開いていきます。
「豪華社宅」には別ルールがある
ただし、すべての物件に同じ計算式が適用できるわけではありません。
国税庁の通達では、床面積が240平方メートルを超える物件や、プール・ジムなどの豪華設備がある物件は「豪華社宅」として扱われます。この場合、通常の計算式は使えず、賃料相当額が実際の家賃に近い水準まで引き上げられるため、節税効果はほぼ消滅します。
また、役員が法人に支払う賃料相当額の設定を誤ると、不足分が「役員への現物給与」とみなされるリスクがあります。現物給与になれば、所得税の課税対象になるうえ、社会保険料の追加負担まで発生することがあります。経費として落とせないどころか、むしろコスト増になるケースもあるため、設定は必ず専門家に確認してもらうべき部分です。
契約切り替えには貸主との交渉が必要
実務面でもう一点。現在個人名義で借りている物件を法人名義に切り替える場合、貸主(大家)の同意が必要です。法人審査が別途走ることもあり、断られるケースもゼロではありません。
新しく物件を探すタイミングなら、最初から法人名義で契約するほうがスムーズです。また、役員が毎月法人に賃料相当額を支払う記録を整備しておくことも欠かせません。振込記録など、支払いの事実を明確に残しておかないと、税務調査の際に問題になる可能性があります。
今の家賃、一度だけ計算してみてください
「社宅制度なんて大企業のもの」と思っている社長は意外と多い。でも役員社宅は中小企業でも、オーナー社長でも、問題なく使える仕組みです。
顧問税理士に「うちの家賃、役員社宅に切り替えられますか?」と一言聞いてみるだけで構いません。豪華社宅の該当可否、賃料相当額の計算、契約変更の手順まで、専門家ならまとめて確認してくれます。
個人払いを続けることで毎年60万円が消えているかもしれないとしたら、その確認に30分かける価値は十分あるはずです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。