先月、年商3億円の建設会社を経営する社長から、こんな相談を受けました。
「税理士から『もう区分マンションでの節税は難しい』と言われたんですが、本当ですか?」
正直に言うと、個人での不動産節税という観点では、その通りです。2024年の評価通達改正以降、流れは大きく変わりました。ただ、法人の社長であれば、まだ別のルートが残っています。今日はその話をしたいと思います。
個人の「区分マンション節税」はほぼ封鎖された
かつて、タワーマンションや区分マンションを購入して相続税評価額を圧縮するスキームが広く使われていました。時価と評価額の乖離を利用したもので、節税効果が大きかった分、2024年に国税庁がメスを入れました。
改正の骨子はシンプルです。区分マンションの相続税評価額が市場価格の60%未満になる場合、補正をかけて評価額を引き上げるというもの。「安く評価されすぎている物件は、もっと高く評価し直す」という仕組みです。
この改正で、従来の節税効果は大幅に薄まりました。個人でマンションを購入して相続対策を考えていた方には、かなり痛い変更です。
法人社長にだけ残っているルート
では、手詰まりかというと、そうではありません。
法人の社長限定ですが、「役員社宅制度」という節税ルートが今も生きています。こちらは相続税の話ではなく、法人税を減らすための制度で、今回の評価通達改正の影響をほとんど受けていません。
仕組みはこうです。法人が物件を賃借し、その物件を社長(役員)に貸し出します。このとき、社長から受け取る家賃は「実際の賃料」ではなく、国税庁の通達で定められた計算式によって算出した「賃料相当額」で構いません。
市場家賃と賃料相当額の差額が、丸ごと法人の損金(経費)に算入されるというのがポイントです。
数字で見ると、その差は大きい
たとえば、月20万円の家賃で社宅を借りたとします。国税庁の計算式で算定した賃料相当額が月3万円であれば、差額は月17万円、年間では204万円になります。
この204万円が法人の損金に算入されると、所得800万円超の法人(実効税率およそ34%)では、年間で約69万円の節税効果が生まれます。
社長個人の手取りは変わらない(自宅の家賃が法人負担になる)のに、法人の税負担は毎年70万円近く減る。これが役員社宅の実態です。10年続ければ、それだけで700万円近い差が生まれます。
気をつけるべき落とし穴
ただし、何でもOKというわけではありません。
まず、賃料相当額の計算は物件の種類(木造・鉄筋コンクリート等)や床面積によって変わります。計算を誤ると、差額が「給与」と認定されて社長個人に所得税がかかるリスクがあります。節税どころか余計な税負担が生じる可能性があるので、計算は必ず専門家に依頼してください。
また、社長が実際に住んでいることが前提です。法人名義で借りておきながら、実態は社長が使っていない、あるいは家族に無償で貸しているといったケースは認められません。形式だけ整えても、実態が伴っていなければ税務調査で否認されます。
物件選びの段階から、税理士に相談しながら進めることをおすすめします。「この物件で社宅を組んだらいくら節税になるか」は、物件が決まってから計算するのではなく、契約前に試算しておくのが鉄則です。
「個人は詰んだ」で終わらせないために
2024年の改正で「個人での不動産節税は終わった」と思い込んでいる社長が多い印象です。ただ、法人ならではのルートは別として存在しています。
役員社宅は、以前からある制度でありながら、意外と活用されていないのが現実です。「そんな制度があったのか」と、顧問税理士から初めて聞かされる社長も少なくありません。
自社の節税対策を見直すタイミングがあるなら、まず「役員社宅を使っているか」を確認してみてください。特に家賃を自己負担している社長には、今すぐ顧問税理士に相談してみる価値があります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。