先日、不動産を数棟持つ50代の社長から、珍しく青ざめた声で電話がかかってきました。
「税務署が来ていて、修繕費の処理で揉めているんですが…」
話を聞くと、数年前にリノベーションした物件の工事費用を、まるごと修繕費として一括計上していたことが発覚。過去3年分をさかのぼって調べられ、かなりの金額の追徴を覚悟しなければならない状況でした。
不動産経費は「払ったものは全部経費になる」と思いがちです。でも実際には、3つの典型的なミスが、税務調査で繰り返し否認されています。今回はその中身と、なぜ追徴が300万円を超えることがあるのかをお伝えします。
最も危険なミス:修繕費と資本的支出の「区分」を間違える
外壁の全面塗り替え、老朽化した給排水管の刷新、内装を一新するフルリノベーション——こうした工事費用を、「修繕したんだから修繕費でいいだろう」と一括計上するのが最も多いミスです。
税法では、建物の価値や耐久性を「高める」支出は「資本的支出」として扱います。資本的支出は一括で経費にできず、建物の耐用年数に応じて分割して減価償却しなければなりません。
たとえば500万円の外壁改修工事を一括で修繕費計上した場合。本来なら耐用年数に応じて毎年数十万円ずつ計上すべきところを、500万円を一気に経費にしているわけです。この差額がそのまま追徴の対象になります。
判断の目安は「元の状態に戻す工事か、それ以上にする工事か」ですが、現実にはグレーゾーンも多い。税務署は工事業者の見積書や請求書の文言、施工写真まで確認します。「修繕」と書いてあっても、内容が改良工事なら否認されます。
ミス②:法人と個人の費用が混在している
法人名義の物件と個人名義の物件を両方持っている社長は、特に注意が必要です。
個人名義の物件にかかった管理費や修繕費を、法人の経費として計上してしまうケースがあります。「自分の物件だから」という感覚が、気づかないうちに経費の区分を曖昧にさせてしまうのです。
税法上、法人と個人の財布はまったく別物です。調査員は登記簿謄本と経費の紐づけを丹念に確認します。「この修繕費、法人の物件ですよね?」と問われた瞬間に答えられなければ、即座に否認されます。
経費を計上するときは、「この費用は、どの名義の物件に対するものか」を一件ずつ確認する習慣をつけてください。
ミス③:同族会社間の家賃が時価から乖離している
社長個人が所有する物件を、自分の会社に貸し付けているケースは珍しくありません。問題になるのは、そのときの家賃設定です。
「節税したいから、会社に高めの家賃を払わせよう」という発想で、相場よりも著しく高い家賃を設定していると、会社側で「過大な経費」として否認されます。逆に、相場より低い家賃の場合は「低額譲渡」として個人側に課税されることもあります。
同族会社間の取引は、時価を基準にした適正な金額で契約書を作成するのが大前提。口頭の取り決めや、相場と大きくかけ離れた金額は、後から説明がつきません。
なぜ追徴が300万円を超えるのか
経費の区分を間違えただけなら、本来は差額の法人税と加算税(10〜15%程度)で収まるはずです。
ところが、税務署が「意図的な操作」と判断した瞬間に話が変わります。
「仮装・隠蔽」と認定されると、通常の過少申告加算税(10〜15%)に代えて**重加算税(35%)**が課されます。さらに、未納期間に応じた延滞税も加算されます。
本税が100万円のケースでも、重加算税35万円+延滞税が数年分積み重なれば、合計は150万円を超えます。不動産を複数棟持ち、複数年分さかのぼられれば、300万円超の追徴は決して珍しくありません。
「知らなかった」は免責理由になりません。故意でなくても、帳簿の整合性が取れていなければ否認される——それが税務調査の現実です。
今すぐできる防衛策は「記録を残す」こと
修繕工事をするたびに、見積書・施工写真・請求書をセットで保管してください。「どこをどう直したか」が書類で説明できれば、修繕費か資本的支出かの判断材料になります。
また、同族間の賃貸借契約は必ず書面で作成し、近隣の相場賃料を調べた根拠資料も一緒に保管しておくと安心です。
不動産を複数持っている社長は、決算書を作る前に、一度顧問税理士と経費処理を棚卸ししてみてください。「大丈夫だと思っていた」が最も危ない状態です。一度の確認が、数百万円のリスクを未然に防いでくれます。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。