先日、クライアントの社長から「不動産を買おうと思うんですが、個人と法人、どっちで持った方がいいですか?」という質問を受けました。

答えはケースによって異なりますが、節税の視点だけで見れば、多くの場合で法人で持つ方が圧倒的に有利です。今日はその理由を、具体的な数字で説明します。

法人で不動産を持つと、何もしなくても経費が生まれる

法人で不動産を持つ最大のメリットは「減価償却」にあります。

減価償却とは、建物の価値が年々目減りしていく分を、毎年の経費として計上できる会計の仕組みです。土地は対象外ですが、建物部分は購入した瞬間から、毎年自動的に経費が積み上がっていきます。

たとえば3,000万円の木造物件を買ったとしましょう。木造建物の法定耐用年数は22年。3,000万円 ÷ 22年 = 年間約136万円が経費として計上できます。これは現金の支出がなくても、帳簿上は毎年136万円のコストが発生する、という扱いになります。

「経費になる=税金が減る」ではない。節税額の計算式

ここで少し立ち止まってほしいのですが、経費が増えると税金はどれくらい減るのでしょうか。

計算式はシンプルです。節税額 = 経費額 × 法人実効税率。法人の実効税率は資本金や利益規模によって変わりますが、おおよそ**22〜34%**の範囲に収まります。先ほどの136万円で計算すると——

税率22%なら約30万円、税率34%なら約46万円の節税効果です。毎年この金額が、物件を持ち続ける限り積み上がっていく、ということになります。

個人で持つと、なぜ節税幅が狭まるのか

「個人でも減価償却できますよね?」という疑問が出るかもしれません。確かにその通りです。

ただし、個人の場合は所得税の計算構造が法人と異なります。不動産所得として計上できる経費の範囲に制限があり、特に高所得の経営者ほど累進課税で税率が上がる一方、不動産で出た損失を他の所得と相殺できる範囲が限られています。

法人であれば、減価償却で意図的に作り出した赤字を、他の事業利益とまるごと相殺できます。これが個人との最大の差です。年収が高い経営者ほど、この差は大きくなります。

減価償却だけじゃない。法人経費になるもの

法人で不動産を持つと、減価償却以外にも次のような費用が経費になります。

  • 修繕費:外壁塗装、設備交換など
  • 火災・地震保険料:物件にかけた保険
  • ローン利息:元本は返済ですが、利息部分は経費
  • 管理会社への委託費:賃貸管理を外部委託した場合
  • 固定資産税:物件にかかる税金

これらを合算すると、実際の節税効果はさらに膨らみます。物件の規模や借入の有無によっては、減価償却だけで100万円を超えるケースも珍しくありません。

「法人で不動産を持つ」前に確認しておきたいこと

ただし、何でもかんでも法人で買えばいい、ということではありません。

まず、法人で不動産を取得する際には不動産取得税・登録免許税が発生します。個人から法人への名義変更にも同様のコストがかかるため、新規購入と名義変更では判断が変わります。

次に、減価償却は建物の価値を「前倒しで経費化」する仕組みでもあります。将来売却する際に建物の帳簿価額が下がっているため、譲渡益が大きくなりやすい点も頭に入れておく必要があります。

さらに、法人での不動産保有が増えると、財産評価(相続税の計算)に影響することもあります。節税と相続、両方の視点から設計することが大切です。

今期の利益が見えてきたなら、早めに動く

決算2〜3ヶ月前になると「何か節税できないか」と焦る社長が増えます。でも不動産は購入に時間がかかるため、節税目的で動くなら少なくとも半年前から情報収集を始めておくのが理想です。

「うちの法人で持ったら、実際どれくらい節税になるのか」という試算は、物件の種類・耐用年数・借入の有無によって大きく変わります。まだ検討したことがなければ、今期の利益を見ながら税理士に具体的な試算を依頼してみてください。仕組みを知っているだけで、次の決算に向けた選択肢がぐっと広がります。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。