先日、製造業を経営する田中社長(年商約3億円)からこんな話を聞かせてもらいました。
「不動産を売ったら、思っていた倍くらい税金を取られてびっくりしましたよ。もっと早く知っていれば……」
思わず苦笑いしながら話してくれた田中社長ですが、その後の動き方が素早かった。同じ失敗を繰り返さないために、すぐに仕組みを整えた社長のケースは、多くのオーナー経営者にとって他人事ではないと思います。
個人で売ると、利益の半分以上が消える
不動産を個人で売ったときにかかる税金、正確に把握していますか?
短期(所有5年以下)なら約39%、長期(5年超)でも約20%——と思っている方が多いのですが、落とし穴があります。事業オーナーの場合、不動産の売却益は「総合課税」の対象になることがあり、他の所得と合算されて最高税率55%(所得税45%+住民税10%)が適用されるケースがあるのです。
田中社長の場合、役員報酬だけでも年収3,000万円あったため、不動産の売却益がそのまま最高税率の対象になりました。1,000万円の利益を出したつもりが、手元に残ったのは450万円。550万円が税金として消えたわけです。
「そんなに取られると知っていたら、買い方を変えていた」——これが田中社長の正直な感想でした。
法人で持てば、税率は約23%まで下がる
では、最初から法人名義で同じ物件を保有・売却していたらどうなっていたか。
法人税の実効税率は、中小企業の場合おおよそ23%前後です(所得規模により変動あり)。個人の最高税率55%と比べると、その差は実に32ポイント。1,000万円の売却益で単純計算すると、320万円の差になります。
「たった税率の違いでしょ」と思うかもしれませんが、不動産の売買は一度の取引金額が大きい。5,000万円の物件で2,000万円の利益が出れば、それだけで640万円の差になるのです。これは無視できない金額です。
売却益だけじゃない。保有中の経費メリットも大きい
法人で不動産を持つメリットは、売るときだけではありません。保有している間も、経費面で大きな恩恵を受けられます。
まず、管理費や修繕費はもちろん全額経費に計上できます。それ以上に注目したいのが減価償却の仕組みです。建物の取得費用を法定耐用年数に応じて毎年少しずつ経費化できるため、実際には現金が出ていかないのに帳簿上の利益を圧縮できます。
個人でも減価償却は使えますが、法人の場合は役員報酬と組み合わせることで、さらに効果が高まります。法人の利益を役員報酬として受け取ることで、給与所得控除も活用でき、個人・法人の両方で税負担を最適化できるのです。
田中社長は現在、新しい物件を法人名義で購入し、減価償却と役員報酬の調整を組み合わせた結果、年間400万円以上の節税効果が出ています。一度仕組みを作ってしまえば、毎年継続的に効いてくるのが法人活用の強みです。
「でも、法人で不動産を買うのは面倒じゃないの?」
よくいただく質問です。確かに、法人での不動産購入は個人と比べて登記費用や手続きが少し複雑になる部分もあります。また、法人の場合は融資の審査基準が個人と異なるケースもあるため、金融機関との関係づくりも重要です。
ただ、こうした初期コストは、節税効果が数年分積み上がればすぐに回収できます。田中社長のように年400万円の節税が実現できるなら、多少の手間は十分に見合うでしょう。
ひとつ注意しておきたいのは、**すでに個人で持っている不動産を法人に移す(法人成り)**のは、また別の話だということ。個人から法人への売却は課税対象になるため、タイミングや方法を誤ると逆効果になることもあります。これは必ず税理士と一緒に検討してください。
今期、不動産の購入を検討しているなら
「いつか不動産も持ちたい」と考えているなら、最初の一棟目から法人名義で検討することをおすすめします。後から個人→法人に移そうとすると、移転コストがかかりますし、タイミングによっては不利になることもあります。
特に年収(役員報酬)がすでに高い社長は要注意です。個人所得が増えるほど不動産売却益への課税も重くなる構造になっているので、早めに法人活用の枠組みを作っておくことが、長期的な資産形成に直結します。
「自分の会社規模でも使える話なのか?」と気になった方は、一度顧問税理士に「不動産を法人で買う場合のシミュレーションをしてほしい」と相談してみてください。数字を見れば、判断はずっとクリアになります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。