先日、都内でマンション3棟を所有するオーナー社長からこんな相談を受けました。「昔、消費税が丸ごと戻ってくるスキームがあると聞いたんだけど、今もできるの?」と。
結論から言うと、かつての手法はほぼ封じられています。でも、完全に終わったわけではありません。
今日はこの「消費税還付スキーム」の現在地を、できるだけわかりやすく整理してみます。
2020年以前、何が起きていたのか
少し歴史を振り返ります。かつて不動産オーナーの間で広く使われていたのが、賃貸物件を使った消費税還付スキームです。
仕組みはシンプルでした。建物を購入する際に支払う消費税(建物1億円なら消費税1,000万円)を、課税売上を意図的に作ることで「仕入税額控除」の対象にし、丸ごと還付を受けるというものです。
具体的には、賃貸物件の一室を「課税売上」が立つ事業用途(自販機を置くなど)に使い、課税事業者として申告することで還付を狙う、という手法が横行していました。税務署の目も光っていましたが、法の隙間をついた設計で実行された事例は少なくありません。
改正で「居住用」は完全アウトに
2020年10月、国税庁はついに本格的にメスを入れます。「居住用賃貸建物」については、仕入税額控除を認めないという改正が施行されたのです。
これにより、住宅として貸し出す物件を新たに取得した場合、建物にかかる消費税はそもそも控除の対象外となりました。どんなに課税売上を作り込んでも、還付の計算に組み込めない。スタート地点から除外されたわけです。
「居住用賃貸建物」とは、住宅の貸付けの用に供しないことが明らかな建物以外のもの、と定義されており、マンションやアパートは原則としてここに該当します。2020年10月1日以降に取得した物件が対象ですので、それ以前に取得したものとは扱いが異なります。
ただし、テナント・事業用物件はまだ別の話
ここで大事なのが、「居住用」ではない物件の扱いです。
オフィスビル、商業テナントビル、倉庫、ホテルや民泊物件など、事業用途に供することが明らかな不動産については、今も仕入税額控除の対象となり得ます。
たとえば、1.5億円の商業テナントビルを取得して消費税1,500万円を支払った場合、課税売上割合や事業の状況によっては、相当額の消費税還付が受けられるケースがあります。
当然ながら、課税事業者として正しく申告することが前提で、事業の実態が伴っていることが求められます。「形だけ事業用にしておけば大丈夫」という甘い考えは通じません。
「調整対象固定資産」のルールも要注意
もう一つ、見落としがちな落とし穴があります。それが調整対象固定資産と高額特定資産のルールです。
消費税の還付を受けた後、一定期間内(3年間)に課税売上割合が著しく変動した場合、還付した消費税を後から返還しなければならない「調整計算」が発生します。
たとえば、テナントビルとして取得して還付を受けたあと、2年後に用途を住居系に変更してしまうと、還付分の一部が吐き出しになる可能性があります。長期的な事業計画と合わせた設計が必要です。
今でも狙えるポイントをまとめると
現時点での整理をすると、こうなります。
- 住居用マンション・アパートの新規取得:原則として消費税還付は不可
- 取得時期が2020年9月以前の物件:経過措置の適用余地あり(個別判断が必要)
- 商業テナント・オフィス・倉庫など事業用物件:課税事業者として正しく申告すれば還付の余地あり
- 民泊・ホテル系:消費税課税取引として設計できれば対象になり得る
これらはあくまで「可能性の話」であり、物件の構造や法人の課税区分、申告スケジュールなど、複数の条件が重なって初めて有効な手段になります。
不動産に強い税理士への確認が、唯一の正解
消費税還付は、知識がある人間が設計すれば合法的に実現できるものですが、知識が中途半端だと税務調査で丸ごと否認されるリスクも高い領域です。
「昔やった人から聞いた」「ネットで見た情報」をそのまま実行するのは非常に危険です。税制改正のスピードが速く、2〜3年前の情報がすでに古くなっていることも珍しくありません。
不動産投資と消費税の両方に精通した税理士に、物件の取得前に相談することが絶対条件です。取得してから「どうすれば還付できますか?」と聞いても、すでに手遅れなことがほとんどです。
事業用不動産の取得を検討しているなら、契約書にハンコを押す前に、必ず専門家に一本電話を入れてください。それだけで、数百万円単位の差がつくことがあります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。