先日、愛知県で製造業を営む社長からこんな一言をもらいました。

「自社ビルの修繕費、ずっと個人で払ってたんですよ。まさか法人でここまで落とせるとは思ってなかったです」

その社長・田中さん(仮名)は、自社ビルの一部を賃貸に出していました。でも管理にかかる費用はすべて個人負担。確定申告でいくらか経費にはなっていたものの、「法人でやればもっと有利だった」と気づいたのは、顧問税理士を変えてからの話です。

実は、法人で賃貸経営を行うと、個人では見えにくかった経費の幅が一気に広がります。田中さんのケースでは、年間で約100万円の節税効果が出ました。今日はその中身を、ひとつひとつ丁寧に見ていきましょう。


法人賃貸経営で経費にできる9つの項目

1. 修繕費

入居者が退去したあとの原状回復や、設備の修理費用は経費として計上できます。個人でも経費にはなりますが、法人名義で契約・支払いをすることで管理がしやすくなり、経費の証拠として残しやすくなる点が大きなメリットです。田中さんも「今まで領収書すら整理してなかった」と話していました。

2. 減価償却費

建物や設備は、購入時に一括で経費にはなりません。ただし、耐用年数に応じて毎年「減価償却費」として経費化できます。キャッシュアウトが伴わないのに経費になるというのが、不動産節税の大きな魅力のひとつです。

3. 借入金利息

物件購入や修繕のために借り入れをしている場合、その利息部分は経費になります。元本の返済は経費になりませんが、利息は「支払利息」として処理できます。ローンを組んでいる法人には見逃せない項目です。

4. 管理委託料

入居者の募集や家賃の集金、クレーム対応などを不動産管理会社に委託している場合、その費用も当然経費になります。管理の手間を外部に任せながら、その費用をしっかり落せるのは法人経営の強みです。

5. 火災保険料

物件にかけている火災保険や地震保険の保険料も経費計上できます。個人でも計上できますが、法人で一括管理することで漏れなく処理できます。意外と忘れがちな項目のひとつです。

6. 固定資産税

毎年5月ごろに届く固定資産税の通知書。この税額も、賃貸用物件であれば法人の経費として処理できます。年間で数十万円になることも珍しくないため、きちんと計上するかどうかで税負担に大きな差が出ます。

7. 交通費

物件の管理や入居者対応、不動産会社との打ち合わせなど、賃貸経営に関連した移動にかかる交通費も経費になります。ただし、プライベートの移動と混在しないよう、記録をきちんと残しておくことが重要です。

8. 通信費

入居者や管理会社との連絡に使うスマートフォンの通信料や、物件管理のために使うインターネット代なども、業務利用分は経費にできます。按分が必要な場合もあるため、使用実態に応じた処理が求められます。

9. 役員報酬(これが一番インパクト大)

ここが、法人賃貸経営で最も見落とされやすく、かつ節税効果が大きいポイントです。

家族を法人の役員にして給与を支払えば、その報酬は法人の経費になります。さらに、家族側も給与所得控除が使えるため、家族全体としての税負担を大幅に下げることができます。これを「所得分散」と呼びます。

田中さんも、奥様を役員に就任させ、月々一定額の役員報酬を支払う形にしたことで、大きな節税効果を生み出しました。ただし、役員報酬は「実態のある業務」があることが前提です。名ばかり役員では税務調査のリスクがあるため、しっかりとした根拠を準備しておく必要があります。


「個人でやってる」の何がもったいないのか

個人で賃貸経営をしても、修繕費や固定資産税などはもちろん経費になります。ただ、個人の場合は「役員報酬で所得分散」という手が使えません。これが決定的な差です。

たとえば、年間の賃料収入が500万円あって、経費が200万円だったとします。個人なら残り300万円がそのまま課税対象になりますが、法人で役員報酬を活用すれば、その300万円を家族に分散させて、それぞれに低い税率を適用させることができます。

所得税は累進課税なので、一人に集中するほど税率が上がる構造になっています。法人を使った所得分散は、この仕組みに対する合法的な対策です。


経費計上で気をつけたいこと

一点、強調しておきたいことがあります。

ここで紹介した9項目は、すべての法人・すべての物件に無条件で適用できるわけではありません。物件の用途、法人の事業実態、役員の業務内容など、状況によって判断が変わります。

特に役員報酬の設定は、「不相当に高い」と判断されると経費として認められないこともあります。税理士と相談しながら、根拠のある金額設定をすることが大切です。


賃貸収入があるのに、まだ個人のまま経営しているなら、一度「法人化の試算」を税理士に依頼してみることをおすすめします。田中さんのように「知らなかった」で損をし続けるのは、あまりにももったいないです。今期の決算が終わる前に、まず現状の経費の洗い出しから始めてみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。