先日、製造業を営む社長からこんな相談を受けました。「数年前に税理士に勧められて米国の物件を買ったんですが、去年の税務調査で追徴課税を受けまして……」。声のトーンが、明らかに沈んでいました。

話を聞いてみると、知っている人なら「あの手法か」とすぐわかる、海外不動産の減価償却スキームです。一時期、節税に熱心な経営者の間で非常に人気を集めた方法ですが、2023年の税制改正によって状況は大きく変わっています。今もなお「まだ使える」と思っている方がいるとすれば、かなり危険な状況にあるかもしれません。

なぜ海外不動産が節税の王道とされていたのか

そもそもこの手法がなぜ注目されたのかを、簡単に振り返っておきましょう。

日本の税法では、建物の価値が時間とともに下がる分を「減価償却費」として毎年経費に計上できます。そして海外の中古木造物件、特に米国の築古アパートは、日本の計算ルール上、耐用年数が非常に短くなるケースがありました。

具体的には、耐用年数が最短4年と算定される物件もあり、たとえば1億円で購入した場合、年間2,500万円を経費として計上できる計算になります。高い所得税率の適用を受けている個人オーナー社長にとっては、これが大きな節税効果をもたらしていたわけです。

合法的な手段であり、優秀な税理士も活用を勧めていた時代がありました。それが2022年頃まで続いた「海外不動産節税の全盛期」です。

2023年の改正で何が変わったのか

転換点となったのは、2023年度の税制改正です。この改正によって、個人が海外不動産で得た減価償却費を、他の所得(給与や事業所得など)と損益通算することが、実質的にほぼできなくなりました。

つまり、「不動産で赤字を作って、本業の所得を圧縮する」という個人向けの節税スキームは、ほぼ封じられた形になっています。

法人名義で持てばまだ使えるのでは? そう思う方もいるかもしれません。確かに法人での保有は現時点で一定の経費計上は可能です。ただし、落とし穴があります。減価償却で資産の帳簿価格を下げた分、売却時の利益(譲渡所得)が膨らみ、出口で一気に課税が集中するリスクがあります。節税したはずが、売るに売れない物件を抱えることになりかねないのです。

改正を知らずに申告して、追徴課税を受けた社長の実例

冒頭の社長の話に戻りましょう。田中社長(仮名)は2022年に米国の中古木造アパートを1億円で取得し、その年は問題なく多額の減価償却費を計上していました。

ところが翌2023年、改正後のルールが施行されたにもかかわらず、前年と同じやり方で申告をしてしまいました。顧問税理士との情報共有が不十分だったことが原因です。その結果、税務調査が入り、数百万円規模の追徴課税と延滞税を課される事態になりました。

5,000万円の節税を目指して始めたスキームが、最終的にキャッシュアウトを招いた。これは決して「運が悪かった」話ではありません。税制は毎年変わります。一度組んだスキームが翌年も使えるとは限らない、という事実を改めて突きつけられた事例です。

今、海外不動産を保有している社長が確認すべきこと

もし現在、海外不動産を個人または法人名義で保有しているなら、以下の点を顧問税理士と早急に確認することをおすすめします。

  • 個人保有の場合、損益通算の制限がどのように適用されているか
  • 法人保有の場合、売却時の出口課税のシミュレーションができているか
  • 現在の申告内容が最新の税制に対応しているか

特に「数年前に提案されたスキームをそのまま継続している」という方は要注意です。当時は合法だったものが、改正後に問題になるケースは海外不動産に限らず起こりえます。

節税は「最新情報」との戦い

節税の世界で一番怖いのは、古い情報を信じ込んでしまうことです。税制は生き物で、毎年の改正によって昨日の正解が今日の誤りになることがあります。

「以前、セミナーで聞いた話」「3年前に税理士に勧められた方法」——それをアップデートせずに使い続けることが、今回のような追徴課税につながります。

海外不動産に限らず、減価償却を活用した節税スキームを取り入れているなら、今期の決算前に一度、税理士と制度の現状確認をする場を設けてみてください。15分の確認が、数百万円のリスクを防ぐことになるかもしれません。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。