先日、ある不動産投資に興味を持つ社長からこんな相談を受けました。

「1億円くらいの物件を買おうと思っているんですが、会社名義と個人名義、どっちがトクなんですかね?」

実は、この質問を受けるのは一度や二度ではありません。それだけ多くの社長が「なんとなく個人で買っている」か、逆に「なんとなく法人のほうが良さそう」という感覚だけで動いているケースが多いのです。

結論から言うと、法人名義のほうが節税メリットは大きい場面が多いです。ただし、出口戦略まで含めて考えないと思わぬ落とし穴にはまることもあります。今回は、判断の決め手になる3つのポイントを整理してみます。


1. 税率の差が、そのまま手残りの差になる

まず最も基本的な話から。不動産から得た収益(家賃収入や売却益など)に対してかかる税率が、個人と法人では大きく異なります。

個人の場合、所得税は累進課税なので、所得が増えるほど税率が上がります。高収益な経営者であれば、住民税と合わせると実質的な負担率が50%を超えるケースも珍しくありません。

一方、法人税の実効税率はおおよそ23〜25%程度。仮に家賃収入が年間1,000万円あったとして、個人なら500万円近くが税金として消える計算になりますが、法人なら250万円前後で済む可能性があります。この差は、物件を複数持つほど、また収益が大きくなるほど、より顕著に開いていきます。

「たった税率の違いでしょ?」と思うかもしれませんが、5年・10年のスパンで見ると数百万から数千万円の差になることも十分あり得ます。


2. 法人の減価償却は、毎年の利益を削る強力な武器になる

次に見落とされがちなのが、減価償却の活用です。建物は毎年少しずつ価値が下がるという考え方のもと、取得費用を数十年かけて経費に計上できる仕組みです。

個人でも減価償却は使えますが、法人のほうが有利な点があります。それは、法人の場合は減価償却費を「任意償却」にできるという点です。つまり、利益が出た年には多めに経費計上して税負担を下げ、赤字が見込まれる年には計上を抑える、という柔軟な対応が可能なのです。

具体的な数字で考えてみましょう。1億円の物件を購入した場合、建物部分が5,000万円だとすると、耐用年数が20〜30年とすれば、毎年170万〜250万円程度を経費に落とせる計算になります。これが毎年の課税所得を圧縮し、キャッシュアウトなしに節税できるという意味で非常に強力です。

法人の利益が毎年安定して出ている会社ほど、この仕組みは大きな威力を発揮します。


3. 売却時だけは、個人名義のほうが有利なケースがある

ここが多くの人が見落としているポイントです。

法人名義の物件を売却した場合、その売却益は法人の利益として計上され、法人税がかかります。ところが個人名義の場合、保有期間が5年を超えると「長期譲渡所得」として約20%の分離課税が適用されます。

法人税率の約25%と比べると、5ポイントほど低い。一見小さい差に見えますが、売却益が1億円規模になれば500万円の差です。さらに、個人で長期保有した場合は3,000万円の特別控除(居住用の場合)が使えるケースもあるため、出口で大きく逆転する可能性もあります。

つまり、購入時・保有時は法人が有利、売却時は個人が有利になるケースもあるという二面性があるのです。購入前から「最終的にいつ・どんな形で手放すか」を想定しておくことが、長期的な節税では欠かせません。


判断する前に確認しておきたいこと

ここまで読んで「じゃあ法人名義一択だ!」と飛びつくのは少し待ってください。法人名義で不動産を取得する場合、以下の点もセットで考える必要があります。

  • 不動産取得税・登録免許税は個人より高くなるケースがある
  • 法人の財務状況によっては融資が通りにくい場合も
  • 役員への賃貸にする場合は「適正家賃」の設定が必要

これらをトータルで計算してはじめて、どちらが本当にトクかが見えてきます。


不動産の購入は、金額が大きいだけに「なんとなく」で決めると後悔するケースが多い意思決定のひとつです。今期の節税だけでなく、5年後・10年後の出口まで含めたシミュレーションを、ぜひ信頼できる税理士と一緒に作っておくことをおすすめします。特に、すでに個人名義で物件を持っている方は、法人への移転が現実的かどうかも一度相談してみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。