先日、こんな相談を受けました。

「物件を買うために資本金を増やそうと思っているんですが、問題ないですよね?」

不動産投資に積極的な40代の社長からの一言です。気持ちはよくわかります。大きな買い物をする前に、会社の体力を示したい。銀行への印象もよくなるかもしれない。でも私は即座に「ちょっと待ってください」とお伝えしました。

その理由を、これから丁寧に説明していきます。

資本金1,000万円の壁を知っていますか?

消費税には「免税事業者」という制度があります。一定の条件を満たす事業者は、消費税の納税が免除されるというものです。

新しく設立した法人であれば、設立後2年間は消費税が免除される可能性があります。これは規模の小さい会社にとって、非常に大きな恩恵です。

ただし、この特例には条件があります。その一つが「資本金が1,000万円未満であること」です。

資本金を1,000万円以上に設定した瞬間、設立初年度から消費税の課税事業者になってしまいます。せっかくの免税特例が、資本金の金額一つで消えてしまうのです。

3,000万円の物件なら、差額は約273万円

「消費税の免税といっても、そんなに大きな差にはならないでしょう」と思う方もいるかもしれません。

でも、不動産の金額で考えてみてください。

3,000万円の収益物件を購入する場合、建物部分に消費税がかかります。仮に建物部分が2,500万円だとすれば、消費税は10%で250万円。諸費用や仲介手数料なども含めると、トータルの消費税負担は273万円前後になることも珍しくありません。

この金額を「払わずに済む」か「払わなければならない」かは、経営判断として無視できる数字ではありません。新車が一台買えてしまいます。

では、資金はどうやって用意すればいいのか

「資本金を増やせないなら、物件購入の資金をどう調達すればいいんだ」という疑問が当然出てきます。

ここで有効なのが、借入金や役員借入という選択肢です。

役員借入とは、社長個人がお金を会社に貸し付ける形で資金を注入する方法です。資本金を増やすわけではないので、免税の条件を壊さずに済みます。銀行からの融資も同様で、借り入れによる資金調達であれば資本金には影響しません。

「資本金を厚くしないと銀行に信用してもらえないのでは?」と心配する声も聞きますが、実際には事業計画や収益性、物件の担保価値の方が審査において重要視されるケースが多いです。資本金だけが融資の判断軸ではありません。

タイミングを間違えると取り返しがつかない

ここで特に注意してほしいのは、**「やってしまってからでは遅い」**という点です。

資本金の変更は登記事項です。一度1,000万円以上に増資してしまうと、その期から課税事業者になります。物件の購入が終わってから「やっぱり資本金を戻そう」としても、消費税の免税は戻ってきません。

しかも、不動産の購入検討から契約・決済までのスケジュールは意外と短いことが多い。「いい物件が見つかったから急いで動きたい」という状況で、資本金の変更だけ先に進んでしまうリスクは十分にあります。

増資の登記をする前に、必ず専門家への確認を挟むクセをつけておくことが大切です。

「どうせ2年後には課税事業者になる」と割り切っていいのか

もう一つよく聞かれる質問があります。「どうせ2年後には消費税を払うことになるんだから、今から課税事業者になっても変わらないのでは?」というものです。

これは半分正しくて、半分間違いです。

確かに長期で見れば課税事業者になります。ただ、購入タイミングの消費税の還付や控除の仕組みは、免税・課税どちらであるかによって扱いが大きく変わります。最初の2年間のうちに物件を取得するケースでは、免税であることが有利に働く場面が多い。

また、法人の設立直後に節税の選択肢を一つ潰してしまうことは、その後の資金繰りにも影響します。最初の2年間をどう使うかは、長期的な経営戦略にも関わってくるのです。

購入前に一度、税理士に資本金を確認してもらってください

不動産の購入を検討しているなら、物件選びと並行して、必ず自社の資本金と消費税の状況を税理士に確認してもらってください。

「資本金はいくらにしておくべきか」「今から増資すると免税が失われるか」「役員借入や融資で対応できるか」——これらは税理士が数分あれば確認できる話です。

たった一つの確認で、200万円以上の差が生まれることがある。それが税務の世界です。

不動産購入を急いでいる社長こそ、立ち止まって確認する時間を10分だけ作ってみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。