先日、設立したばかりの不動産賃貸法人を持つ社長から、こんな相談を受けました。

「物件を買う資金が少し足りないので、資本金を増やして対応しようと思っているんですが、問題ないですよね?」

一見、ごく自然な判断に思えます。でも正直に言うと、これはやってしまうと後悔する代表的なミスのひとつです。タイミングと金額によっては、数百万円単位で損をすることになりかねません。


資本金1,000万円の「壁」を知っていますか?

消費税には、新しく設立した法人が最大2年間、消費税の納税を免除してもらえる「免税事業者」の特例があります。ただし、この特例には条件があって、資本金が1,000万円未満であることが大前提のひとつになっています。

資本金が999万円なら免税。でも1,000万円になった瞬間、設立初年度から消費税の課税事業者になってしまいます。わずか1万円の差が、税負担の有無を分けるわけです。

これを知らずに「物件購入の資金を増やそう」と増資してしまうと、免税の恩恵がまるごと消えてしまうことがあります。


3,000万円の物件なら、消費税だけで約273万円

「でも消費税って、そんなに大きな金額になるの?」と思う方もいるかもしれません。具体的な数字で見てみましょう。

仮に3,000万円の収益物件を購入するとします。不動産の売買には建物部分に消費税がかかります(土地は非課税)。建物価格が2,500万円だとすると、消費税10%で250万円。さらに仲介手数料や付帯費用にも消費税がかかることを考えると、トータルで270万円超の消費税が発生することも珍しくありません。

免税事業者のままであれば、この消費税を申告・納税する義務がないケースがあります。一方で課税事業者になると、仕入税額控除の仕組みを使って還付を受けられる可能性もあるため、一概に「免税=得」とは言い切れない部分もあります。

ただ、新設法人が最初から課税事業者になることで生じるデメリットの方が大きいケースは多く、特に収益が安定する前の初年度・2年度は、免税のメリットを残しておく価値は非常に高いです。


では、資金はどうやって調達すればいい?

ここで冒頭の相談に戻ります。資本金を増やさずに購入資金を確保する方法は、実はいくつかあります。

ひとつは金融機関からの借入です。法人で不動産を買う場合、融資を使うのはごく一般的な手段で、資本金に影響を与えません。

もうひとつが役員借入金の活用です。社長個人が会社にお金を貸す形を取れば、資本金を動かさずに法人の手元資金を厚くすることができます。利息の設定など細かいルールはありますが、資本金の壁を超えないための有力な選択肢です。

どちらも「資本金を積み上げる」という発想から離れることで、消費税の免税メリットをそのまま守ることができます。


「増資する前に一言」が何百万円を守る

税の話は、やってしまってから気づいても取り返しがつかないことが多いです。増資は登記が完了した時点で効力が発生するので、「やっぱりなかったことに」とはなりません。

不動産の購入は金額が大きい分、税の影響も大きくなります。物件の利回りを0.1%改善するより、購入時の税コストを200万円削る方が、よほどインパクトがある場合も多い。

法人で不動産を購入する前には、必ず税理士に**「今の資本金で消費税の免税は使えますか?」**と一言確認してみてください。その一言が、数百万円の節税につながることがあります。

資本金をいじる前に、まず調達方法の選択肢を広げて考えてみる。それだけで、かなり有利な状況で物件購入に臨めるはずです。


※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。