先日、ある社長からこんな相談を受けました。「会社で事務所ビルを買おうと思って、先に資本金を増やしておいたんですよ。やっぱり体裁も大事じゃないですか」——その一言を聞いた瞬間、少し胸が痛くなりました。

善意で、むしろ会社のためを思ってした判断が、数百万円単位の損失につながっていたからです。今日はそのリアルな話をしたいと思います。

資本金1000万円を超えると、消費税の免税が消える

法人が不動産を購入するとき、建物部分には消費税がかかります。たとえば建物価格が5000万円なら、消費税だけで500万円です。これ、条件次第では丸ごと免税になる可能性があるんです。

消費税には「免税事業者」という制度があり、一定の条件を満たす法人は消費税の納税が免除されます。その条件のひとつが、資本金が1000万円未満であること。設立初期の会社や、増資をしていない会社はここに該当するケースが多いんです。

ところが、不動産購入の前に「見栄えをよくしよう」「取引先への信用のために」と資本金を1000万円超に増やしてしまうと、この免税の恩恵を受ける資格を永遠に失います。一度超えたら、戻せません。

建物部分の消費税が300万円、500万円、場合によっては1000万円を超えることもある不動産購入において、これは笑えない金額です。

3000万円超えで、今度は固定資産税も変わってくる

話はそれだけではありません。資本金が3000万円を超えると、今度は固定資産税の軽減措置が受けられなくなるケースが出てきます。

中小企業向けの固定資産税の特例は、資本金の規模によって適用要件が変わるものがあります。毎年かかる固定資産税の軽減が受けられるかどうかは、長期的な保有コストに直結します。10年、20年と持ち続ける不動産なら、その差は積み重なって大きな金額になります。

つまり、増資のタイミングを一つ間違えると、購入時の消費税と、毎年の固定資産税、両方で損をするという二重のダメージを受けることになるんです。

「増資してから買う」は逆の順番だった

冒頭の社長の話に戻ります。彼は「会社の信用力を上げてから不動産を取得しよう」と考えて、先に増資をしました。その気持ちは十分わかります。でも税務の観点から見ると、順番が完全に逆でした。

正しい流れはこうです。

まず現在の資本金の状況と、消費税の課税・免税の状況を確認する。次に、購入予定の不動産の建物価格(消費税がかかる部分)を把握する。そのうえで、増資が必要かどうか、するなら購入のにすべきかを判断する。

この順番を守るだけで、数百万円が手元に残ることがあります。

注意したいのは「課税事業者選択」の落とし穴も

もう一点だけ補足しておきます。消費税の免税事業者であっても、あえて課税事業者を選択することで、不動産購入時の消費税を「仕入税額控除」として取り戻せる場合があります。

ただしこれは、選択のタイミングや事業の実態によって効果が大きく変わります。「免税だから何もしなくていい」でも「課税にすれば得」でもなく、個別の状況に応じた判断が必要です。このあたりは一律に「こうすれば正解」と言えない部分なので、不動産購入を検討し始めた段階で、早めに税理士に相談することを強くおすすめします。

動く前に一度立ち止まってほしい

法人での不動産購入は、節税効果が大きい一方で、タイミングや順序を間違えると取り返しのつかない損失を生みます。増資、購入、課税事業者の選択——この三つの判断の順番が、数百万円単位の差を生むことがあるんです。

「不動産を買おうと思っている」と思った瞬間が、税理士に相談するベストタイミングです。登記が終わってからでは、できることが大幅に減ります。まだ検討段階という方こそ、今すぐ顧問税理士に一本連絡してみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。