先日、愛知県で製造業を営む社長からこんな相談を受けました。
「うちの妻、自社ビルの管理を全部やってくれてるんですけど、給料は払ってないんですよね。家族だからまあいいかなって思って……」
思わず「それ、めちゃくちゃ損してますよ」と伝えました。
家族が実際に働いているのに、給与を払っていない。これは税務上、ものすごくもったいない話です。所得が社長一人に集中すればするほど、税率も社会保険料もどんどん重くなっていくからです。
所得の「分散」が節税の王道
日本の所得税は累進課税です。稼げば稼ぐほど税率が上がる仕組みなので、一人に所得が集中するのは税的には最悪の状態といえます。
逆に言えば、適切に所得を分散させることができれば、家族全体での税負担をぐっと下げることができます。これが「家族を役員にする」という発想の根本にある考え方です。
たとえば社長一人で年収2000万円を受け取るより、夫婦それぞれ1000万円ずつ受け取るほうが、合計の税負担は小さくなります。これは所得税の基本的な性質を使った、ごく真っ当な節税策です。
不動産管理法人という「器」を作る
先ほどの社長の場合、解決策として提案したのが「不動産管理法人の設立」でした。
自社ビルの管理業務をそのまま個人で続けるのではなく、管理専門の法人を別途つくる。そこに奥さんと息子さんを役員として入れて、法人が家賃収入を受け取る設計に変えるわけです。
具体的には、法人から奥さんと息子さんにそれぞれ年間150万円の役員報酬を支払う形にしました。2人合わせて年300万円。この報酬は法人の経費になるので、法人の課税所得が下がります。
さらにポイントなのが「給与所得控除」です。役員報酬として受け取ると、給与所得控除という控除枠が自動的に使えます。150万円の報酬であれば、約55万円が控除されて課税所得は95万円程度になります。つまり実際に税金がかかる金額が大きく圧縮されるわけです。
この設計変更だけで、年間の節税効果は約300万円。もともとタダ働きだったのですから、その差は歴然です。
「実態のある業務」が絶対条件
ここで必ず押さえておきたい注意点があります。
税務署が最も目を光らせるのが、「名前だけの役員」問題です。実際には何もしていないのに役員として報酬だけ受け取っている場合、その報酬を経費として認めないと否認されるリスクがあります。
認められるためには、実態のある業務をしっかりと担当させることが前提です。たとえば入居者対応、修繕業者との連絡・調整、賃貸契約の管理、月次の収支確認といった具体的な業務を役員が実際に行っていることが必要です。
業務内容を議事録や業務日報などで記録しておくことも、税務調査のときに非常に有効です。「何をやっているか」を説明できる状態にしておくことが、この設計を守る鎧になります。
こんな社長に特に刺さる話
この手法が特に効果を発揮しやすいのは、次のようなケースです。
- 配偶者や子どもが実際に管理・経理などを手伝っているのに無報酬
- 社長個人の所得税率が高くなってきた(課税所得が900万円を超えてくるあたりから要注意)
- 賃貸収入が年間500万円以上ある
逆に、家族がまったく業務に関与していない、あるいは関与させるつもりがないケースでは、この設計は向いていません。無理に当てはめると税務上のリスクになります。
法人設立のコストも考慮に入れて
「法人を作るって手間もコストもかかりそう」と感じる方もいるかもしれません。設立費用や毎年の法人住民税の均等割(最低でも年7万円程度)は確かにかかります。
ただ、年間300万円規模の節税が実現できるなら、コストに対するリターンは圧倒的です。初年度こそ手間がかかりますが、設計が固まれば翌年以降は安定して機能し続けます。
大切なのは、自分のケースで本当にメリットが出るかどうかを、数字ベースでシミュレーションしてから動くことです。
今すぐ確認してほしいこと
家族が実際に会社や物件の管理に関わっているのに、何も報酬を払っていないという状況があれば、今期中に一度、税理士に設計の見直しを相談してみてください。
「うちは家族経営だからしょうがない」と諦めている社長ほど、実は大きな節税の余地が残っています。タダ働きを続けさせているのは、家族への申し訳なさより先に、税務上の大きな機会損失だと覚えておいてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。