先日、ある社長からこんな相談を受けました。
「税理士さん、法人で収益物件を買おうと思って銀行に相談したんですが、あっさり断られてしまって…。個人のときはすんなり通ったのに、なぜでしょう?」
年商3億円の建設会社を経営する、業歴10年のベテラン社長の話です。個人での不動産購入経験もある方でしたが、法人での融資は「個人とはまったく別のゲーム」だということをご存じなかったんですね。
実はこういった相談、最近とても増えています。節税目的で法人を活用したい社長が増えている一方で、法人融資の審査基準を誤解したまま銀行の窓口へ行き、門前払いをくらってしまうケースが後を絶ちません。
今回は、融資を断られる社長に共通する「3つのミス」をお伝えします。思い当たる節があれば、融資申し込みの前にぜひ確認してみてください。
銀行は最初に「役員報酬」を見ていない
多くの社長が勘違いしているのが、「自分の役員報酬が高ければ融資は通る」という思い込みです。
個人のローンであれば、年収=返済能力という見方は確かに有効です。でも法人融資では話が違います。銀行がまず確認するのは、法人の純資産と債務超過になっていないかどうかです。
純資産がマイナス、つまり債務超過の状態だと、社長の報酬がいくら高くても審査のテーブルにすら乗りません。さらに言えば、赤字決算が2期続いている場合も、多くの金融機関でほぼ門前払いになります。
「今期は利益が出ているから大丈夫」と思っていても、過去の決算書2〜3期分を見られるのが銀行審査の基本です。直近の数字だけで判断せず、複数期にわたる財務の流れを整えておくことが重要です。
「頭金20〜30%」という見えないハードル
次に多いのが、自己資金比率に関する誤解です。
個人の不動産ローン(特に住宅ローン)であれば、フルローンや少額頭金での融資も珍しくありません。ところが法人の不動産融資では、物件価格の20〜30%程度の自己資金を求められるケースが一般的です。
1億円の物件なら、2,000万〜3,000万円を法人口座に用意しておく必要があるということです。これを知らずに「法人口座に500万円あるから大丈夫だろう」と思って相談に行くと、話がそもそも噛み合いません。
法人の内部留保をしっかり積み上げておくことが、不動産購入への近道になります。節税対策で利益を全部使い切ってしまうと、いざ融資を受けたいときに自己資金が足りない、という本末転倒な状況に陥ります。節税と内部留保のバランスを意識することが大切です。
意外すぎる落とし穴「役員貸付金」の存在
そして、最も見落とされがちなのが役員貸付金の問題です。
会社の資金を社長個人が借りている状態、つまり貸借対照表に「役員貸付金」が載っている場合、銀行の審査では大きなマイナス評価になります。
銀行の目線では、「会社のお金が社長個人に流れている=会社の資金管理がルーズ」と映ります。また、その貸付金が実質的に返済される見込みがなければ、資産の水増しとして見られることもあります。
「昔、会社の口座から個人的な支払いをしてしまって、そのまま精算していない」というケースが特に多いです。金額が数百万円でも、銀行の担当者は決算書の細部まで見ています。融資を考えているなら、まず役員貸付金をゼロに近づける努力が先決です。
具体的な解消方法は状況によって異なるため、顧問税理士や取引金融機関に相談するのが確実です。
融資を受ける前に整えておくべきこと
ここまでの3点を整理すると、こうなります。
- 純資産と収益性:赤字が続いていないか、債務超過になっていないか
- 自己資金:物件価格の20〜30%を法人口座に確保できているか
- 役員貸付金:貸借対照表から役員貸付金を解消しているか
これらはどれも「融資を申し込む直前に慌てて直す」ことが難しい項目です。決算を1〜2期かけてきれいにしていく必要があるものがほとんどです。
逆に言えば、今すぐ不動産購入の予定がなくても、将来的に法人で物件を取得したいと考えているなら、今この瞬間から財務を整え始めることが最大の準備です。
法人融資は「その場の交渉力」より「積み重ねてきた決算書の質」で決まります。社長の熱意より、数字が語る信用力が問われるんですね。
不動産購入を法人活用の一手として考えているなら、今期の決算が終わったタイミングで一度、顧問税理士と「融資を受けられる財務状態かどうか」を確認してみることをおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。