先日、製造業を営む社長から「税理士に任せておけば大丈夫だと思っていたのに、同業の友人と比べたら数百万円も節税額が違っていた」というご相談を受けました。

同じ金額、同じ物件。それなのに、なぜこんな差がつくのか。答えはシンプルで、「土地と建物の按分比率」という、多くの社長が見過ごしている数字にありました。


按分比率って、そもそも何の話?

収益物件を購入するとき、購入価格は「土地代」と「建物代」に分けて記帳する必要があります。この割合のことを按分比率と呼びます。

なぜこれが重要かというと、税務上で経費にできるのは「建物」だけだからです。土地はどれだけ時間が経っても価値がなくなるものではない、という考え方から、減価償却の対象外とされています。つまり、建物の比率が高いほど、毎年計上できる減価償却費が増え、結果として税負担が下がるわけです。


同じ物件で300万円の差がついた理由

具体的な話をしましょう。2億円の収益物件を購入したA社長とB社長がいたとします。

A社長は固定資産税評価額をそのまま使い、「土地7:建物3」という比率で申告しました。建物部分は6,000万円。これをもとに減価償却費を計算します。

一方、B社長は購入前に不動産鑑定士へ依頼し、鑑定評価をもとに「土地4:建物6」という比率に変更しました。建物部分は1億2,000万円です。

この差は6,000万円。耐用年数などによって変わりますが、年間の減価償却費にすると約100万円の開きが生じます。3年で300万円、10年では1,000万円超の差になることもあります。

まったく同じ物件を買ったのに、申告の仕方ひとつでここまで変わる。これが、冒頭の社長が「青ざめた」理由です。


固定資産税評価額が「正解」とは限らない

多くの場合、按分比率は固定資産税評価額の比率をそのまま使います。手間がかからず、税務署にも説明しやすいためです。ただし、これが常に最適とは限りません。

固定資産税評価額はあくまで行政が課税のために算定した数字。市場価値や経済的な実態を正確に反映しているわけではありません。特に築年数が古い建物や、立地の良いエリアに建つ物件では、実態との乖離が大きくなることがあります。

そこで活用できるのが不動産鑑定士による鑑定評価です。専門家が市場データや収益性をもとに算定した評価であれば、固定資産税評価額とは異なる比率を採用する合理的な根拠になります。


「購入前」が唯一のタイミング

ここで強調しておきたいのは、このテクニックは購入前にしか使えないという点です。

一度申告した按分比率を後から変更するのは非常に難しく、税務署から否認されるリスクも高まります。「あとで鑑定してもらえばいい」という話ではなく、売買契約の段階で動くことが前提になります。

購入検討中の段階で税理士に相談し、必要であれば不動産鑑定士に鑑定を依頼する。このプロセスを物件購入のチェックリストに組み込んでおくだけで、節税の可能性は大きく変わります。


注意点:根拠なき按分は税務署に狙われる

「建物の比率を高くすればいいなら、適当に8割にすればいいのでは?」という発想は危険です。

按分比率には合理的な根拠が必要です。根拠のない比率で申告した場合、税務調査で否認されるリスクがあります。その場合、過去に計上した減価償却費が取り消されるだけでなく、延滞税や加算税が課されることもあります。節税のつもりが、むしろ損をするケースです。

鑑定評価や合理的な計算方法に基づいた按分であることが、この戦略の前提条件です。必ず専門家と一緒に進めてください。


収益物件を持っている社長へ、今すぐ確認してほしいこと

今お持ちの収益物件の按分比率が、固定資産税評価額のまま申告されていないか、一度確認してみてください。特に「土地の比率が7割以上になっている」という場合は、改善の余地があるかもしれません。

また、これから物件購入を検討している方は、ぜひ契約前に税理士へ一報を。「按分比率の最適化について相談したい」と伝えるだけで、話が大きく変わることがあります。

減価償却は、正しく使えば何年にもわたって効いてくる節税の仕組みです。一度整えてしまえば、毎年自動的に経費が積み上がっていく。そのベースを作るのが、按分比率の検討です。物件を持つなら、ここだけは手を抜かないでほしいと思います。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。