先日、ある製造業の社長からこんな相談を受けました。「収益不動産を何棟か持っているんですが、全部個人名義なんです。これって問題ありますか?」

その方、年商2億円を超える会社を経営されていて、毎年2,000万円以上の利益が出ています。不動産も順調に増やしてきた。でも、肝心な「どちらの名義で持つか」は深く考えたことがなかった、とおっしゃっていました。

結論から言うと、これは見直す価値が十分あるケースでした。

個人と法人、税率の差がそのまま損得になる

個人の所得税は、所得が増えるほど税率が上がる累進課税です。給与や不動産収入が重なると、最高税率は住民税も合わせて**55%**に達します。年商2億規模の経営者であれば、すでに最高税率付近にいることが多い。

一方、法人税の実効税率は中小企業で23%前後です。この差は、単純に言えば「同じ100万円の利益でも、個人で持てば55万円が税金に消え、法人なら23万円で済む」ということ。

この差が、不動産経営で毎年発生し続けるわけです。

8,000万円の物件で何が起きたか

先ほどの社長の場合、税理士に相談して収益不動産を法人名義で取得する方針に切り替えました。8,000万円の物件のうち、建物部分が6,000万円。この建物を法定耐用年数で減価償却すると、年間約200万円を経費として計上できます。

法人税率が23%とすると、200万円 × 23% = 年46万円の節税。これが毎年続きます。

さらに見逃せないのが、修繕費や管理費の扱いです。個人の場合、不動産所得の必要経費として認められるものは限定的ですが、法人であれば業務に関連する支出を幅広く損金算入できます。管理会社への委託費、外壁の修繕、エアコンの交換といった費用が、そのまま会社の経費になる。

10年で数百万円の差になる

「年46万円か、たいしたことないな」と思われるかもしれません。でも、これが10年続くと460万円です。物件を複数持てば、その分だけ効果は積み重なります。

加えて、個人と法人の税率差(最大32ポイント)は、不動産収益が出るたびに毎回発生します。物件が増え、収益が上がるほど、この差の絶対額も大きくなっていく。長期で見れば、名義をどちらにするかは「数百万円単位の意思決定」になり得ます。

注意点:すでに個人で持っている物件はどうする?

「今から法人に移せばいいんですか?」という質問もよく受けます。ここは慎重に考える必要があります。

個人から法人へ不動産を移す場合、個人側で譲渡所得税が発生する可能性があります。含み益がある物件だと、移転コストが節税メリットを上回ることもある。

また、すでに個人でローンを組んでいる場合、金融機関との関係で法人への名義変更が難しいケースもあります。「これから買う物件は法人名義にする」という方針で動くのが、現実的な選択肢になることも多いです。

法人名義が向いているのはどんな社長か

以下に当てはまるなら、税理士への相談をおすすめします。

  • 個人の所得税が高く、すでに最高税率近辺にいる
  • 会社の利益が安定していて、毎年2,000万円以上出ている
  • 今後も不動産を追加取得する予定がある
  • 相続対策も視野に入れている(法人株式として承継できるメリットがある)

逆に、会社の利益がまだ少なかったり、個人の所得税率が低い段階では、法人名義のメリットが薄れることもあります。「絶対に法人が得」ではなく、状況次第です。

まずは「今の名義」を棚卸しするところから

多くの経営者は、不動産を買うとき「利回りはどうか」「立地はどうか」に注目します。でも、「どちらの名義で持つか」は、長期の手取りに直結するにもかかわらず、意外と後回しにされがちです。

個人で収益不動産を持っているなら、一度現状を整理してみてください。税率の差、減価償却の使い方、修繕費の扱い——これらを総合的に見直すだけで、年間の税負担がかなり変わる可能性があります。

決算が近い方は特に、今期中に税理士と「法人名義での不動産戦略」を話し合っておくことをおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。