先日、不動産を3棟持つ製造業の社長から、こんな相談を受けました。

「次の物件を買おうと銀行に打診したら、決算書を見た途端に渋い顔をされた。毎年ちゃんと節税できているのに、なぜ?」

この社長、減価償却で毎期しっかり費用を計上し、法人税をほぼゼロに抑えていました。節税という観点では教科書どおりの運用です。でも、銀行の目線はまったく別のところを見ていた。そこに大きな落とし穴がありました。

銀行は「利益」で企業を判断する

銀行が融資審査でまず確認するのは、その会社が「稼げているかどうか」です。具体的には、損益計算書に表れる当期純利益や営業利益を見て、格付けを決めます。

減価償却費は実際にキャッシュが出ていかない費用です。でも損益計算書では立派な「費用」として計上されるため、計上すればするほど帳簿上の利益は下がります。節税できているということは、裏を返せば「帳簿上は赤字か、薄利に見える」ということでもある。

銀行はキャッシュフローも加味して審査しますが、格付けモデルの基本は損益です。減価償却で毎期赤字が続くと、格付けが下がり、「この会社には貸せない」という判断が下されてしまうのです。

法人には「任意償却」という強力な武器がある

ここで多くの社長が知らない話をします。個人(所得税)では減価償却は原則として定められた額を必ず計上しなければなりませんが、法人(法人税)は違います

法人の減価償却は「任意償却」といって、0円から法定の上限額の範囲で、毎期自由に計上額を調整できます。多く計上したい期には上限まで計上し、融資審査が近い期には0円にすることも選択肢です。

つまり、節税と融資の両立が設計できる仕組みが、法人には最初から備わっているのです。

具体的にどう操作するか

たとえばRC造(鉄筋コンクリート)5,000万円の収益物件を法人で取得した場合、法定耐用年数は47年です。定額法で計算すると年間の償却上限は約106万円(5,000万円 ÷ 47年)になります。

この物件に対して取れる選択肢は、毎期0円〜106万円の間で自由に決められる、ということです。

戦略的に使うとすれば、こういうイメージになります。

  • 融資を検討している期:減価償却を抑えめ(または0円)にして、損益を黒字に見せる
  • 黒字が大きく出た期:上限まで計上して利益を圧縮し、法人税を減らす
  • 設備投資や役員報酬変更の前後:税負担のバランスを見ながら調整する

ただし注意点があります。計上を先送りにした分、後の期に計上できる額は増えません。「今期ゼロにした」分が来期に繰り越せるわけではなく、あくまで「上限の範囲内で使うかどうか」を毎期選ぶ仕組みです。先送りは課税の繰り延べではなく、課税の前倒しになる面もあります。

陥りがちなパターン

不動産に詳しい税理士がいない会社でよく起きるのが、「とにかく節税!」と毎期上限まで計上し続けるパターンです。短期的には法人税が減りますが、気づいたときには3期連続赤字の決算書ができあがっていて、銀行との関係が修復不能になっている、というケースが実際にあります。

逆に融資ありきで減価償却を一切計上しない会社もあります。これも利益が膨らんで法人税・地方税の負担が増し、キャッシュが想定外に流出してしまう。どちらも「計画なしに動いた結果」です。

決算前に「来期の融資計画」を確認する習慣を

任意償却を有効に使うためには、決算締め前の段階で翌期以降の資金計画を把握しておくことが欠かせません。来期に新たな物件取得や設備投資の融資を予定しているなら、今期の計上額を抑えて黒字を作る。しばらく融資予定がなく利益が出ているなら、今期に多めに計上して節税する。

これを決算後に「今年はいくらにしますか?」と聞くだけの税理士に任せていると、どうしても場当たり的な対応になってしまいます。年に1〜2回、融資計画と損益の見通しをセットで確認する場を設けることが、長期的な資産形成には不可欠です。

法人で不動産を持っているなら、一度「うちの減価償却の計上方針はどうなっているか」を顧問税理士に確認してみてください。明確な答えが返ってこないようなら、方針の設計から相談できる税理士への切り替えを検討する価値があります。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。