先月、製造業を経営する社長から相談を受けました。年商5億円ほどの会社で、毎年の法人税が「6000万円を超えてきた」と。
役員保険には以前から加入していて、法人で収益物件も一棟持っているとのこと。それぞれ税理士に言われるがまま進めてきたけれど、「まだ削れるはずだ」という感覚があったそうです。
話を聞いてすぐにわかりました。2つの仕組みが「バラバラに動いている」のです。
保険だけでは限界がある
2019年の税制改正で、法人定期保険の損金算入ルールは厳格化されました。とはいえ、ピーク解約返戻率が一定水準を超えない商品であれば、保険料の一部を損金として計上できる仕組みは今も生きています。
ただし、保険だけで年間1000万円以上の経費を積もうとすると、保険料の総額が膨らみすぎる問題があります。将来受け取る金額も大きくなる分、出口設計が複雑になる。バランスをとることが思った以上に難しいのです。
不動産の減価償却も単独では「重い」
法人で中古不動産を購入すれば、耐用年数が短縮された分だけ前半の減価償却費が厚くなり、節税効果を早期に得られます。たとえば築25年超の木造物件は耐用年数を短く設定できるため、初期の数年間に減価償却費を集中させることが可能です。
ただ、年間1000万円以上の減価償却費を生み出すには、それなりの規模の物件が必要です。2〜3億円規模の取得が前提になることも多く、融資・管理・将来の売却まで考えると「不動産単独で節税を完結させる」のはハードルが高い。
2つを組み合わせると、数字が変わる
ここからが本題です。
役員保険と法人不動産を同時設計すると、それぞれの弱点を補い合う構造が生まれます。年利益2億円を超えてくる法人で考えてみましょう。実効税率は33〜34%の水準です。
- 法人定期保険の損金部分:年間約1000万円
- 中古法人不動産の減価償却費:年間約2000万円
この2つを合算すると、年間3000万円前後の経費が積み上がります。実効税率33%で試算すれば、年間約1000万円の税負担軽減に相当します。
保険が経費の「流れ」を作り、不動産の減価償却が「厚み」を加える。それぞれ単独では実現しにくい規模の節税が、組み合わせることで見えてくるのです。
落とし穴は「出口」にある
ここで強調しておきたいことがあります。この二刀流設計は、入口より出口のほうがずっと複雑です。
保険は満期や解約のタイミングで保険金・返戻金が法人に入ってきます。これは原則として雑収入として課税対象になります。多くの場合、役員退職金とぶつけて相殺するのが定石ですが、社長の引退時期・退職金額の設計と精緻に連動させないと、余計な税負担が生じます。
不動産も同様です。売却時には帳簿上の価値と売却価格の差額が売却益として課税されます。減価償却で節税した恩恵が、売却時に課税で戻ってくる構図です。これは「繰り延べ」であって「免除」ではない点を理解しておく必要があります。
「入口だけ設計して出口を無視していた」というケースで、期待した節税効果が半減以下になってしまうことは珍しくありません。
何年スパンで設計するかが全てを決める
この設計で最も重要なのは、時間軸です。
社長が何歳で代表を退くか。役員退職金をいくらに設定するか。不動産はいつ、誰に、どう売却するか。これらをゴールから逆算して、保険の保険期間・保険金額・不動産の購入タイミング・物件規模を決めていく必要があります。
10年スパンで設計が噛み合えば、累計節税額が1億円を超えるケースもあります。逆に「保険は保険、不動産は不動産」と別々に考えていると、出口で帳消しになりかねません。
決算が近い社長ほど、今が動き時
法人保険の損金効果は、加入した事業年度から発生します。今期中に契約できれば、今期の税負担を下げられます。不動産も今期中に引き渡しが完了すれば、今期から減価償却費を計上できます。
「来期から考えよう」では、その1年間の機会損失が確定します。年利益1億〜2億円超の法人を経営されていて、まだこの二刀流設計を試したことがないなら、今期中に税理士と具体的なシミュレーションをしてみることをおすすめします。決算を越えてしまってから動いても、もう1年待つことになるのです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。