先日、都内で賃貸アパートを3棟持つオーナー社長からこんな相談を受けました。

「管理法人を作って物件を移そうと思ってるんですが、どうすればいいですかね?」

節税目的で法人を使う流れは今や常識です。ただ、物件を個人から法人に「移す」段階で、実は税金が3重に発生するという落とし穴が、意外と知られていません。

今回はそのリスクを、重大度の高い順に整理してお伝えします。


第3位:移転時にかかる「即日コスト」

不動産を個人から法人に移転するには、法務局への所有権移転登記が必要です。このとき登録免許税と不動産取得税がセットでかかります。

合計すると物件価格の5〜6%前後になるケースが多く、1億円の物件であれば最大600万円が即コストとして出ていきます。

「法人を作って節税しよう」と意気込んでいた社長が、移転コストだけで数百万円飛んでいくと聞いて絶句する——というのは珍しくない光景です。

管理料スキームで法人を使う場合は所有権を移転しないため、このコストは発生しません。逆に言えば、本当に所有権ごと移す必要があるのかを先に検討することが大前提です。


第2位:個人側にかかる「譲渡所得税」

法人に物件を売却するとき、個人側には売却益(譲渡所得)が発生します。

取得費が低い物件——特に築古で土地の値上がりが大きい物件——は、帳簿上の利益が膨らみやすく、**売却益の約20%**が課税されます。

「30年前に2000万円で買った土地が今は8000万円」という物件なら、単純計算で差額6000万円に対して約1200万円の税負担です。しかも、建物の減価償却が進んでいればいるほど取得費が下がり、税額はさらに上がります。

築古物件を持っているオーナーほど、移転コストが大きくなりやすい構造になっているわけです。


第1位:最も怖い「みなし譲渡課税」

「税金がもったいないから、法人に安く売ろう」と考えたとき、もっとも危険なのがこの落とし穴です。

税法では、時価の2分の1未満の価格で法人に売却した場合、時価で売ったとみなして課税されます。これが「みなし譲渡課税」です。

1億円の物件を節税目的で3000万円で法人に売ると、個人には3000万円しか入ってきません。ところが税務署は「1億円で売ったはずだ」と判断し、1億円ベースで譲渡所得税を計算してきます。

手元に来たお金は3000万円なのに、税金は1億円ベースで計算される。最悪のケースでは、税金を払うお金がなくなる事態も起こりえます。

「安く売れば節税になる」という発想が、まったく逆効果になるのがこのルールの怖さです。


移転を検討するなら、順序が命

個人所有の物件を法人に移すこと自体は、長期的に有効な節税手段です。ただし、移転コスト・個人の税負担・みなし譲渡のリスクを事前に試算しないまま動くと、節税どころか大きな損失になります。

特に以下のような状況では、慎重な事前検討が欠かせません。

  • 取得から年数が経っていて含み益が大きい物件
  • 土地値が大きく上がっているエリアの物件
  • 法人への売却価格を「とりあえず安く」と考えている場合

まだ管理法人の設計をしていない方は、いきなり物件を動かす前に、まず税理士と一緒に移転コストのシミュレーションをすることを強くおすすめします。移転するかどうかの判断は、その後でも遅くはありません。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。