先日、あるビルオーナーの社長からこんな相談を受けました。「今年、1フロアが3か月空室になって、家賃収入がごっそり消えた。修繕費も管理費も出ていくのに、税金の計算では赤字なのに税金が出てくる感覚がある」と。

この感覚、実は多くの社長が抱えています。空室になれば収入はゼロ。でも出ていくお金は止まらない。なのに、税務上の「対策」を何もしていないと、不思議なことに手取りだけが減っていく構造に陥ります。

一方で、同じように空室が出ても、税負担を年間50〜100万円単位で圧縮している社長がいます。その差はどこで生まれているのか。今日はそこをお伝えします。

空室期間に経費を積み上げる「管理法人」という発想

まず前提として知っておきたいのが、「管理法人」という仕組みです。

不動産を個人で所有し、賃料をそのまま受け取っている場合、空室になった瞬間に収入がゼロになります。それだけなら損益はフラットに見えますが、固定資産税・火災保険・ローン金利・管理費といったコストは空室中も発生し続けます。個人所得税の計算上、損失として認識できる範囲も限られています。

ここで管理法人を使うと、構造がガラッと変わります。法人が物件の管理を受託し、管理委託費を受け取る形にすることで、空室期間中も「管理業務」として経費を積み上げることができます。空室だから何もしていない、ではなく、巡回・清掃・入居者募集活動といった業務の対価として、法人内でコストと収益が動き続ける設計です。

役員報酬と修繕積立で「将来の節税」も仕込む

管理法人の活用で特に効果が高いのが、役員報酬の設計と修繕積立の組み合わせです。

法人内で役員報酬を設定しておくと、たとえ空室で売上が薄い月でも、報酬支払いは経費として計上されます。オーナー社長本人や家族への報酬を適切に設計すれば、所得の分散と法人経費の積み上げを同時に実現できます。

修繕積立についても同様です。「空室が出た今こそ、次の入居者に向けてリフォームを検討する時期」と捉えると、修繕費の計上タイミングを意識的にコントロールできます。実際に修繕を行えば、その費用は損金として計上でき、空室によって薄くなった利益をさらに圧縮できます。

法人全体での損益通算も見逃せないポイントです。本業の黒字と不動産管理の赤字が法人内で通算されることで、グループ全体の課税所得を下げる効果があります。個人では「不動産所得」として分離されがちな損失が、法人ならまとめて処理できるのです。

30万円未満の備品は「即時償却」で節税を加速

見落とされがちですが、中小企業には「少額減価償却資産の特例」という強力な武器があります。

取得価額30万円未満の備品・設備は、購入した年に全額を損金算入できます。年間の合計限度額は300万円まで。エアコン・照明・防犯カメラ・宅配ボックスといった入居促進のための設備投資を、空室期間にまとめて行うことで、一気に節税効果を高めることができます。

「空室が続いてキャッシュが出ていくのに、さらに設備投資するの?」と思われるかもしれません。ただ、どうせ次の入居前に整備が必要な設備なら、黒字の年度に購入するより、損益が圧縮されている今期にまとめて購入したほうが、税務上の恩恵が大きくなります。タイミングの選択が節税につながるわけです。

空室リスクは「リスク管理」として設計できる

空室は確かに痛いです。でも視点を変えると、空室期間は「経営上の判断を税務に反映させる余白」でもあります。

修繕のタイミング、設備投資の時期、役員報酬の水準。これらをあらかじめ設計しておくことで、空室という逆境が節税のチャンスになります。知っているか知らないかで、年間50〜100万円の差が出ることは珍しくありません。

まだ管理法人の活用を検討していないなら、今期の決算前に一度、税理士と「空室が出たときの税務設計」を整理しておくことをおすすめします。手を打つのが早いほど、選択肢は広くなります。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。