先日、年商3億円ほどの建設会社を経営する社長から、こんな連絡が届きました。

「役員報酬を月50万円上げようと思って税理士に連絡したら、『もう手遅れです』と言われた。どういうことですか?」

これ、決して珍しい話ではありません。役員報酬は一度決めると原則1年間変えられない——そのルールは多くの社長が知っています。でも、その「前」にやっておくべき準備があることを知らずに、大きな機会損失を生んでいるケースが思っているより多いんです。

報酬を上げれば手取りも増える、は本当か

手取りを増やしたいと思ったとき、多くの社長が真っ先に考えるのは「役員報酬を上げる」ことです。でも、報酬を増やせば当然、所得税と住民税の負担も増えます。

年収が1,500万円を超えたあたりから、所得税率は33〜40%に達します。報酬を100万円上げても、手元に残るのは60万円前後。社会保険料の増加まで考えると、「思ったより手取りが増えない」と感じる社長が多いのも無理はありません。

だからこそ大事なのは、報酬額を決めるに、法人側の経費構造を整えておくことです。この順番が逆になると、取り返しがつかなくなります。

法人不動産経費が「手取り最大化」の鍵になる理由

法人で不動産を保有すると、さまざまなコストを法人経費として計上できます。建物の減価償却費、修繕費、管理委託費、固定資産税、ローンの利息、火災保険料——これらが原則として全額経費になります。個人で不動産を持つ場合と比べて、経費として落とせる「幅」がまったく異なります。

ここで重要になるのが、役員報酬と不動産経費の比率設計です。

仮に法人の年間利益が1,200万円だとします。ここで役員報酬だけを800万円に設定するのと、役員報酬600万円・不動産経費200万円を組み合わせて残りを600万円にするのとでは、法人税と所得税の合計額が大きく変わってきます。この比率を「役員報酬1:不動産経費3」に近づけていくと、法人と個人の両方で節税効果が重なり、同じ手取りを維持しながら年間150万円以上の差が出るケースが実際にあります。

「後から調整すればいい」が一番危ない

ここで多くの社長が陥りやすい落とし穴があります。

「不動産経費のことは、とりあえず役員報酬を決めてから考えよう」——この発想が機会損失を生みます。

役員報酬は、事業年度開始から3ヶ月以内に決定するのが原則で、原則として期中に変更できません。そしてこの報酬額を決める時点で、法人側の経費の枠がどれだけあるかによって最適な報酬水準がまったく変わってくるのです。

不動産の取得や修繕工事には準備時間が必要です。報酬改定の前月までに経費の枠を確定しておく——これが実務での鉄則です。報酬を先に決めてから不動産を検討しても、そのタイミングでの最適化には限界があります。

動く順番を間違えないために

正しい手順を整理すると、次のようになります。

まず、決算の2〜3ヶ月前に現状の法人利益を試算します。次に、法人で保有している(または取得予定の)不動産の経費総額を確認します。そのうえで税理士と「役員報酬と法人経費の最適比率」をシミュレーションし、役員報酬の水準を決定する——という流れです。

この順番が逆になると、後から不動産を追加しても税効果が最大化しにくくなります。

「うちは不動産を持っていない」という方へ

一度立ち止まって考えてみてください。社長が個人で自宅や投資用物件を持っている場合、それを法人に移転する選択肢もあります。また、これから不動産を取得する予定があるなら、取得タイミングと報酬改定のタイミングを合わせるだけで、節税効果が大きく変わります。

役員報酬の改定を検討しているなら、その前に一度、税理士に「法人不動産経費との組み合わせシミュレーション」を依頼してみてください。数字を見てから判断しても、決して遅くはありません。まだ試算したことがないなら、今期の報酬改定がその機会です。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。