先日、ある社長からこんな相談を受けました。
「不動産を法人で買ったのに、思ったほど税金が下がらないんですよ。減価償却はちゃんと計上しているはずなんですが……」
年商3億円の建設業を営む50代の社長です。2年前に法人で収益不動産を購入し、毎年しっかり減価償却を計上しているのに、法人税の額がほとんど変わらない。そう感じていたそうです。
話を詳しく聞くと、原因はすぐにわかりました。役員報酬が高すぎたのです。
「減価償却は計上している」のに節税できない理由
法人不動産を購入すると、建物部分を毎年減価償却費として経費に計上できます。たとえば2000万円の木造建物(耐用年数22年)なら、年間90万円以上の経費が生まれます。これは本当に強力な節税ツールです。
ところが、ここに落とし穴があります。
減価償却は「法人の課税所得」を削る手段です。そもそも課税所得がなければ、削るものがない。
役員報酬が高すぎると、売上から給与を引いた段階で法人の利益がほぼゼロに近くなります。そこに減価償却を乗せても、法人税の軽減効果は極めて薄い。「不動産を持ったのにほとんど変わらない」という感覚は、まさにここから来ています。
「知ってる社長」はこう動いている
節税上手な社長は、法人不動産を取得する前に役員報酬を見直しています。
具体的には、役員報酬を少し引き下げて、法人側に課税所得を意図的に残します。そこに不動産の減価償却費を当てて、課税所得を圧縮する。このセットで初めて、不動産の節税効果がフルに発揮されます。
たとえば、月800万円の売上がある法人で役員報酬を月100万円から月70万円に下げると、法人の課税所得が年間360万円増えます。そこに年間360万円分の減価償却費が当たれば、法人税の課税所得はほぼゼロのまま維持できる。社長個人の所得税は多少上がりますが、差し引きすると月30万円、年間360万円規模の節税が実現することがあります。
これが「役員報酬×法人不動産」の本当の使い方です。
なぜ役員報酬の「高さ」が節税を殺すのか
少し深掘りして説明します。
日本の法人税率(中小企業)は実効税率で25〜30%程度です。一方、役員報酬は個人の所得税・住民税・社会保険料が合わさって、高所得者では実質負担が45〜50%を超えることもあります。
つまり、役員報酬を高くして法人の利益を消すと、法人税25%を節約する代わりに個人負担45%を支払っているという逆転現象が起きます。不動産の減価償却という武器を持ちながら、それを使う「的(課税所得)」がなくなってしまっている状態です。
法人に課税所得を残しておき、そこを減価償却で削る。この順番が正しい設計です。
役員報酬を下げすぎても危ない
ただし、役員報酬を下げれば下げるほど良いかというと、そうではありません。
役員報酬を下げすぎると、今度は個人の手取りが減るという現実的な問題があります。また、社会保険料の計算基礎にもなるため、老後の年金受給額にも影響します。さらに、住宅ローンの審査では個人の年収が重要ですから、報酬を極端に絞ると審査に影響が出ることもあります。
「高すぎると法人税を払い損、低すぎると個人負担が増える」というジレンマは実在します。不動産を組み合わせることで、この最適なバランスポイントが変わるのが面白いところです。不動産があれば、法人側の課税所得を少し残してもそれを相殺できる。だから報酬を下げやすくなり、法人税・個人所得税の両方を同時に最適化できます。
今の役員報酬、最後にいつ見直しましたか?
不動産投資をしている社長でも、役員報酬を設定したときのまま何年も放置しているケースは珍しくありません。会社の規模や利益水準は変わっているのに、報酬だけが昔の設定のまま。これは非常にもったいない状況です。
役員報酬の変更は原則として決算後3ヶ月以内しか認められません(定期同額給与の原則)。思い立ったときに自由に変えられるものではないからこそ、決算前にシミュレーションして、次期の報酬を戦略的に設定することが大切です。
もし法人で不動産を持っているか、これから取得を検討しているなら、今期の決算が終わる前に、一度役員報酬の水準を税理士と一緒に確認してみてください。年360万円の差は、10年で3600万円です。「変えなくていい」という判断でも、根拠を持って決めることに意味があります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。