先日、年商3億円の建設会社を経営する社長から、「業績は悪くないのに、手取りが全然増えない」というご相談をいただきました。

決算書を拝見すると、役員報酬は月90万円。社会保険料の天引き額を見ると、毎月15万円近くが消えています。年間にすると180万円近い負担です。「会社も半分払ってくれているから」と思う方もいますが、会社負担分も結局は会社のコスト。報酬というフィルターを通るたびに、お金が目減りしていく構造になっているのです。

報酬のままもらい続けると「社保の罠」にはまる

社会保険料は「標準報酬月額」という仕組みで計算されます。毎月の給与を31段階に区分し、その区分に応じた保険料率が適用される仕組みです。

重要なのは、役員報酬として受け取った金額がそのまま標準報酬月額の算定ベースに入るという点です。報酬が高ければ高いほど、会社と本人の双方が支払う保険料も増えていく。知らないまま高い報酬設定を続けている社長は、毎月この「社保の罠」にはまり続けています。

賃料に組み替えると二重の節税効果が生まれる

では、知っている社長はどうしているのか。答えはシンプルです。役員報酬の一部を、会社所有不動産の賃料に組み替えるという方法を使っています。

具体的なイメージはこうです。もともと月90万円の役員報酬を受け取っていた社長が、会社名義で取得した不動産について月20万円の賃料を会社から受け取る形にします。同時に、役員報酬を月70万円に引き下げます。

この設計によって、二つの節税効果が同時に生まれます。一つ目は法人税の削減。会社が支払う賃料は損金算入できるため、月20万円なら年間240万円の損金が積み上がります。

二つ目が今回の本題、社会保険料の削減です。賃料は役員報酬ではないため、標準報酬月額の算定対象になりません。報酬ベースが月90万円から月70万円に下がることで、等級が2〜3段階下がり、会社・本人合計で年間60万円近い社保削減に成功した事例があります。

実際の数字で見るとインパクトがわかる

協会けんぽ(東京都)を例にとると、標準報酬月額が月95万円の等級から62万円の等級に下がった場合、健康保険料と厚生年金の合計負担(会社・本人計)で年間50〜70万円のコスト削減になるケースがあります。

「役員報酬を下げる」と聞くと損した気がしますが、賃料収入と合わせた実質手取りはほぼ変わらない、あるいは増えることもあります。支払先を変えているだけ、という感覚に近いかもしれません。10年続ければ、その差は600万円にもなります。

ただし「設計ミス」が命取りになることも

この手法には、いくつか注意すべき落とし穴があります。

まず、報酬を下げすぎると退職慰労金の計算に影響が出る点です。退職金は最終報酬月額をベースに計算されることが多く、大幅に下げると退職時の受取額が想定より低くなる可能性があります。

次に、住宅ローン審査や生命保険の保障額にも影響するケースがあります。個人の収入証明として役員報酬が使われる場面では、金額が下がることがデメリットになる場合もあります。

さらに、法人所有不動産の賃料算定では適正賃料の設定が重要です。市場相場から大幅にかけ離れた賃料は税務調査で問題になることがあります。近隣相場に基づいた合理的な価格設定が必須です。

今の報酬設計、一度見直してみる価値があります

役員報酬の見直しは、原則として毎期1回しかできません。タイミングを逃すと、また1年待つことになります。

「毎月の報酬をそのままもらい続けるのが一番シンプル」という気持ちはよくわかります。ただ、そのシンプルさが、毎年60万円の社保コストとして積み重なっているとしたら、一度試算してみる価値は十分にあるはずです。今期の決算前に、担当の税理士に「賃料への組み替えを試算してほしい」と一声かけてみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。