先日、年商2億円台の不動産会社の社長から相談を受けました。「毎年税金だけで1,000万円以上払っているんですが、これって普通ですか?」
詳しく聞くと、役員報酬は会社設立当初から月100万円のまま。会社の利益が伸びても、一度も見直したことがないと言うのです。
試算してみると、役員報酬を少し調整するだけで、年間300万円以上の手残りが改善できることがわかりました。
役員報酬に「最適額」が存在する理由
役員報酬を決めるとき、多くの社長は感覚で決めています。「まあ月100万円くらいかな」「同業の社長がそれくらいらしいから」。
でも実は、役員報酬には会社と個人を合算したときに最も税負担が少なくなる「最適額」が存在します。
その背景には、役員報酬が持つ2つの機能があります。ひとつは「法人の経費になる」こと、もうひとつは「社長個人の給与所得になる」こと。この2つの税率がぶつかり合う交差点に、最適解が存在するのです。
高すぎると手取りが激減する
役員報酬を高く設定すると、個人の所得税・住民税が急激に上がります。
年収900万円を超えると実効税率は30%を超え、1,000万円台では約43%に達します。つまり100万円増やしても手元に残るのは57万円程度。さらに厚生年金・健康保険の社会保険料も報酬に連動して増え、報酬を100万円上げるたびに会社負担・個人負担合わせて3〜4万円が追加でかかります。
「役員報酬を上げれば節税になる」と思い込んで報酬を高くしすぎると、個人の税負担が雪だるま式に膨らんでいく。これが最初の落とし穴です。
低すぎると法人税で持っていかれる
では報酬を下げれば解決かというと、今度は別の問題が起きます。
役員報酬を低く設定すると、その分だけ法人の利益が増えます。法人の実効税率は約33〜35%。つまり会社に利益を残しすぎると、今度は法人税で持っていかれる。
個人で払うか会社で払うか、払い先が変わるだけで結局は税金が増えていく。このジレンマを解消するのが、最適額の設計です。
最適額の計算はシンプル
計算の考え方自体はシンプルです。
「法人の着地利益を予測し、役員報酬の設定額を変えたときの法人税+個人の所得税+社会保険料の合計が最小になる額を探す」。これだけです。
たとえば法人の経常利益が年2,500万円出る見込みの会社で、役員報酬を700万円に設定するのと1,100万円に設定するのとでは、法人税と個人の税・社保を合算した税負担が年間200〜400万円変わることがあります。
特に注目すべき「税率の壁」は年収800〜1,000万円のゾーンです。この手前に役員報酬を収めると個人の実効税率が急落し、トータルの手残りが大きく改善します。一方、法人に利益を残しすぎても33%の法人税がかかる。この2点のバランスを取るのが最適化の核心です。
毎年10月に試算するのが鉄則
最適額の設計で多くの社長が見落としているのが、「毎年見直す必要がある」という点です。
会社の利益は毎年変わります。売上が伸びれば利益も増え、最適額も変わる。去年正解だった設定が、今年は100万円ズレているということは普通に起きます。
ただし役員報酬は、法人税法の「定期同額給与」のルールにより、事業年度開始から3ヶ月以内に変更しないと経費として認められません。期中に業績が上振れして「やっぱり上げよう」は原則アウトです。
だからこそ毎年10月〜11月頃に当期の着地利益を試算し、翌期の最適額を計算して期首3ヶ月以内の改定に備えるサイクルが重要なのです。このルーティンを10年続けた会社と放置した会社では、累計で数千万円の差がつく可能性があります。
よくある「損するパターン」3つ
周りの社長を見ていると、以下のパターンで損している方が多いです。
① 設立時から一度も見直していない:会社が成長して利益が倍になっているのに役員報酬はそのまま、というケースは非常に多い。
② 節税目的で上げすぎている:「役員報酬を上げると法人税が減る」は正しいのですが、個人の所得税・社保が急増することを見落としている。
③ 社会保険料を試算に入れていない:所得税は意識していても、年収1,000万円で約140万円にもなる社会保険の負担を忘れているケースが目立ちます。
今期の着地が見えてきたら、すぐ動く
もし役員報酬を3年以上見直していないなら、今すぐ確認してみてください。
会社の利益規模が変わっていれば、最適額もほぼ確実に変わっています。今期の着地利益が見えてくる10月前後に「役員報酬の最適化試算をお願いしたい」と税理士に依頼するだけで、来期の手残りが数百万円変わる可能性があります。
感覚ではなく、毎年数字で設計する。それだけで役員報酬は強力な節税ツールに変わります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。