先日、ある社長からこんな相談を受けました。「数年前に節税目的で法人名義のマンションを買ったんですが、息子に会社を継がせようとしたら税理士に『これは大変なことになりましたね』と言われて……」。
その社長は間違ったことをしたつもりはありませんでした。法人で不動産を保有すれば減価償却が使えて節税になる、というのは広く知られた話です。ところが、不動産を入れるタイミングを一つ間違えると、事業承継の場面で子どもが詰みます。しかも、気づいた時には選択肢がほとんど残っていないことが多い。
法人に不動産を入れると株価が跳ね上がる
法人が不動産を保有すると、その不動産は会社の資産として貸借対照表に計上されます。資産が増えれば純資産も増える。これ自体は当たり前の話ですが、事業承継においては大きな問題を引き起こします。
中小企業のオーナーが持つ自社株式は、「純資産価額方式」で評価されることが多いのです。平たく言えば、会社の資産が厚ければ厚いほど、株式の評価額も高くなるという計算式です。
たとえば、1億円の収益不動産を法人に組み込んだとします。不動産は帳簿価額ではなく時価で評価されるため、純資産が大きく膨らみます。結果として株式評価額が2〜3倍に跳ね上がることも珍しくない。実際に、承継コストが5,000万円を超えてしまったという事例が複数あります。
「節税のつもりで買った不動産が、承継の爆弾になっていた」というのは、決して他人事ではないのです。
多くの社長が陥る「後から考えよう」の落とし穴
典型的なパターンはこうです。まず法人に不動産を組み込む。減価償却で節税効果を享受しながら、数年後に「そろそろ後継者に会社を渡そうか」と考え始める。
その時点で初めて税理士に相談すると、株価がすでに高止まりしていて手を打てる選択肢が限られている、という状況に陥ります。承継の設計は、株価が低いうちに動かないと意味がない。これが鉄則です。
そして、「うちはまだ先の話だから」と考えている社長ほど、後になって選択肢を失っていきます。50代で不動産を法人に入れ始め、60代で気づいたときには詰んでいた、というケースが実際に起きています。
正しい順番:設計図があれば承継コストは実質ゼロにできる
では、どうすればよかったのか。正しい手順は次の3ステップです。
① まず持株会社を設計する
事業会社とは別に、株式を保有するための持株会社(ホールディングス)を先に設立します。この段階ではまだ不動産は入っていません。会社の評価額がシンプルな状態のうちに、スキームの器を整えておく。
② 株価が低いうちに株式を移転する
持株会社の株式を、贈与や株式交換などの方法で後継者に移します。株価が低い段階で動くからこそ、贈与税・相続税の負担を最小限に抑えられます。ここが最大のポイントです。
③ その後に不動産を法人に組み込む
株式の移転が完了してから、不動産を持株会社または事業会社に入れます。不動産で株価が膨らんでも、すでに後継者が株式を保有しているので、承継コストは発生しません。
この順番を守るだけで、承継コストを実質ゼロに近づけることが可能です。同じ資産構成でも、手順一つで数千万円単位の差が生まれます。
今すぐ確認すべき3つのポイント
この問題が特に深刻になりやすいのは、次のような状況です。
- 法人でマンションやビルなどの不動産を保有している
- オーナー社長が50代以上で、10年以内に承継を考えている
- 持株会社スキームをまだ整備していない
一つでも当てはまるなら、早めに動いた方がいいです。承継の設計に「早すぎる」はありませんが、「遅すぎた」は取り返しがつきません。
最後に:動けるのは株価が低い今
法人不動産と事業承継の最適解は、会社の規模・保有資産の構成・後継者の状況によって大きく異なります。「自社の株価が今いくらで、このまま承継するといくらかかるのか」を一度試算してみるだけでも、現実が見えてきます。
まだ持株会社の設計に手をつけていないなら、今期中に税理士と相談することを強くおすすめします。株価が低い今こそ、設計図を整える最大のチャンスです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。