先日、製造業を営む60代の社長からこんな相談を受けました。
「そろそろ息子に引き継がせたいんだが、試算してみたら相続税が想像以上で……正直、後継者が払えるか不安で」
売上10億クラスの会社ともなると、株式の評価額は数億円になることも珍しくありません。事業承継の最大の壁は、後継者がその税金を実際に払えるかどうか、というリアルな問題です。
でも実は、法人で不動産を購入するだけで、この問題を大きく緩和できる方法があります。税務署がわざわざ教えてくれることはありませんが、知っているかどうかで数千万円の差がつく話です。
株価を下げる、という発想
事業承継で払う相続税・贈与税は、会社の株式評価額をもとに計算されます。つまり、株価を下げれば税金も下がる、という単純な原理があります。
その中でも即効性が高いのが、法人での不動産購入です。
会社が不動産を買うと、その不動産は「路線価」や「固定資産税評価額」という基準で評価されます。この評価額は、時価(実勢価格)の60〜80%程度になるのが一般的です。
たとえば5億円で購入した不動産でも、相続税の計算上は3〜4億円として評価されます。1〜2億円分が「圧縮」されるイメージです。この評価差が、そのまま会社の純資産ベースの株価を押し下げる効果をもたらします。
3000万円の差が生まれる仕組み
少し具体的に考えてみましょう。
純資産が3億円ある会社が、5億円の収益不動産を購入したとします。購入後も会社の純資産そのものは変わりませんが、不動産の評価が時価より低くなる分、相続税計算上の純資産は圧縮されます。
物件の規模、保有期間、会社の財務状況によって効果は異なりますが、3000万円以上の税負担差が生まれたケースは決して珍しくありません。
後継者にとって3000万円は、「会社を継げるかどうか」を左右するリアルな金額です。手元資金を一気に失うことで、承継直後の経営が苦しくなるケースも見てきました。この対策をしているかどうかで、スタートラインがまるで違います。
絶対に知っておきたい:3年ルールの落とし穴
ただし、この戦略には重要な注意点があります。
税法上、「取得後3年以内の不動産は時価で評価する」というルールがあります。つまり、承継の直前に慌てて不動産を買っても、節税効果はほとんど得られません。
3年が経過してはじめて、路線価・固定資産税評価額ベースの低い評価に切り替わります。
このルールを知らずに動いた社長が「せっかく買ったのに効果がない」と後悔するケースを、実際に何度か見てきました。承継直前に動いても手遅れになる、典型的な失敗パターンです。
10年前から動くのが鉄則
法人不動産を使った事業承継戦略の鉄則は、早く動くことに尽きます。
目安として、承継の10年前から計画を立て始めることをおすすめしています。不動産の選定・購入・3年ルールのクリア・株価評価の見直し、というプロセスを丁寧に踏むだけで、それなりの時間がかかります。
また、不動産の選定自体も重要です。空室リスクの低いエリア、賃料収入が安定している物件を選ばなければ、節税のために購入した不動産が会社の経営を圧迫することにもなりかねません。「節税のための不動産」ではなく「経営にも貢献する不動産」を選ぶ視点が、長期的には正解です。
今すぐ顧問税理士に確認すべき3点
事業承継を10年以内に考えている社長は、まず次の3点を顧問税理士に確認してみてください。
- 現在の自社株の評価額はどのくらいか
- 不動産購入による株価圧縮効果はどの程度見込めるか
- 自社のキャッシュフローで購入・維持できる物件規模はどのくらいか
これだけ把握するだけで、対策の具体度がぐっと上がります。
「うちにはまだ早い」と思っている社長こそ、今すぐ動き始めることをおすすめします。3年ルールがある以上、動き出しの遅さは取り返しがつきません。承継を意識し始めたその日が、最善の行動開始日です。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。