「息子に会社を渡したいんだけど、税金がすごくて踏み切れなくて」

ある製造業の社長からそんな相談を受けたのは、ちょうど決算の時期でした。純資産が約1億円の会社。このまま何もしなければ、株式評価額がほぼそのまま相続税の課税対象になります。試算してみると、承継にかかる税額は軽く数千万円の規模になることも珍しくありません。

「その数字、もしかしたら大きく変えられるかもしれません」と伝えたとき、社長の表情が変わりました。

株式評価額を合法的に圧縮する仕組み

会社の株を相続・贈与するとき、税務上の評価額は「純資産」や「収益力」をベースに計算されます。シンプルに言えば、会社の資産が多いほど税金も多くなる構造です。

ここで使えるのが、収益不動産を法人で保有するという設計です。

不動産を会社に購入させると、何が起きるか。土地は「路線価」で評価されます。これは時価の約80%が目安。さらにそのビルを第三者に賃貸している場合、建物は「借家権割合」によってさらに評価が圧縮されます。東京などでは借家権割合が30%なので、建物評価は時価より大幅に下がるわけです。

そして借入金を使って不動産を購入していれば、資産と同額の負債が計上されます。純資産=資産-負債ですから、借入が多ければ多いほど会社の純資産は小さくなり、株式評価額も下がる。この三つの仕組みを組み合わせることで、条件が揃えば承継税額を9割近く圧縮できた事例が実際に存在します。

具体的にどれくらい変わるのか

たとえば純資産1億円の会社が、5,000万円の収益マンションを借入全額で取得したとします。

取得直後の資産は1億5,000万円になりますが、負債も5,000万円増えるので純資産は変わりません。ところが税務上の評価では、マンションの土地は路線価ベース(時価の約80%)、建物は借家権割合を引いた評価額になります。結果として、帳簿上の純資産は変わらなくても、株式の税務評価額は大きく下がる可能性があります。

もちろん物件の種類、立地、借入条件、会社の財務状況によって効果は大きく異なります。「必ず9割減る」という話ではなく、「設計次第でそこまで圧縮できるケースがある」という理解が正確です。

2024年の通達改正で「やりすぎ」は補正対象に

一方で、2024年1月にマンション評価に関する通達が改正されました。これまで時価と税務評価額の乖離が大きすぎるケースが問題視されており、一定の条件を超えると「評価を補正する」仕組みが導入されています。

簡単に言うと、「あまりにも実態からかけ離れた低評価はNGになった」ということです。タワマンを使った極端な節税スキームへの牽制が主な目的ですが、一般的な収益物件の活用まで封じられたわけではありません。

重要なのは、通達改正後の現在でも、適切な設計のもとであれば不動産を活用した承継税の圧縮は十分に有効だという点です。「2024年以降は全部ダメ」という情報は誤解です。

特例の期限は2027年12月末

もう一つ、見落とせないのが「事業承継税制の特例措置」です。一定の要件を満たした非上場株式の承継について、贈与税・相続税の納税が猶予・免除される制度ですが、この特例を使うためには2027年12月31日までに「特例承継計画」を都道府県に提出している必要があります。

「まだ時間がある」と思いがちですが、計画策定から税理士・弁護士との設計、金融機関との調整、不動産取得まで含めると、余裕は想像以上に少ないのが現実です。特に不動産を絡める設計は、物件の選定だけでも数ヶ月かかることがあります。

今すぐ動くべき理由

承継を「まだ先の話」として後回しにしている社長に、私はよくこう伝えます。「準備にかかる時間は、税理士の都合ではなく物件市場と金融機関の審査が決める」と。

収益不動産の活用は、購入→評価圧縮→承継という順序が必要です。直前に慌てて動いても、良い物件は選べないし、借入審査も通りにくい。早めに動き始めた人ほど、選択肢が広くなります。

まだ事業承継の税務設計を本格的に始めていないなら、2027年の期限を意識しながら、今期中に一度専門家に相談してみることをおすすめします。「うちはまだ早い」ではなく「早めに動くほど有利」という視点で、ぜひ一歩踏み出してみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。