先日、食品卸業を営む社長からこんな連絡が来ました。「そろそろ息子に会社を引き継ごうと思って、自社株の評価額を出してもらったんですが、想像の3倍以上あって……。これじゃ相続税が払えない」と。

業歴30年、手堅く黒字を積み上げてきた会社ほど、自社株の評価額は膨らみます。純資産が増えれば増えるほど、事業承継の壁が高くなる。努力してきた経営者ほど損をする構造、というのは悲しい現実です。

今回は、法人不動産を使って自社株評価を合法的に圧縮する方法をお伝えします。うまく活用すれば、評価額を50%近く下げることも珍しくありません。

法人に不動産を持たせると、なぜ評価が下がるのか

非上場会社の自社株は「純資産価額方式」で評価されることが多くあります。会社の保有資産を時価で換算して、そこから負債を引いた金額をベースに株価が決まる、というイメージです。

ここに重要な仕組みがあります。不動産を保有している場合、その評価は「時価」ではなく「相続税評価額」が使われるのです。相続税評価額は路線価や固定資産税評価額をベースに算定されるため、一般的に時価の70〜80%程度になります。

つまり、時価1億円の物件でも、純資産価額の計算上は7,000万円前後として扱われる。それだけで3,000万円分の評価圧縮になります。現金を不動産に換えただけで、自動的に評価額が下がるわけです。

借入を組み合わせると効果はさらに大きくなる

ここからが本題です。借入を活用すると、効果が飛躍的に高まります。

たとえば1億円の物件を全額自己資金で買った場合、手元の現金1億円が不動産(評価額7,000万円)に変わるだけなので、差引3,000万円の圧縮です。

一方、借入8,000万円+自己資金2,000万円で取得した場合を考えてみます。不動産の評価額は7,000万円ですが、借入8,000万円が負債として計上されます。純資産への影響はマイナス1,000万円。つまり、購入前より純資産が下がるのです。

この「負債が評価額を上回る」構造を使うことで、純資産価額を一気に圧縮できます。物件と借入の条件次第で、評価額50%減も十分に現実的な水準です。

2027年12月末という、見えない締め切り

事業承継税制の特例措置には期限があります。2027年12月31日までに「特例承継計画」を提出し、贈与・相続を実行しなければ、この特例は使えなくなります。

「まだ先の話」と感じている方も多いのですが、不動産を活用した自社株評価の圧縮は準備に時間がかかります。物件探し、金融機関との交渉、購入完了まで通常でも半年〜1年以上。そこから実際の事業承継の手続きを重ねると、今から動いてちょうど間に合うくらいのスケジュール感です。

期限を過ぎてからでは選択肢が大幅に狭まります。

注意しておきたいリスク

この手法には当然、落とし穴もあります。

2022年の最高裁判決以降、「相続直前に節税目的で取得した不動産」について、課税当局が時価評価に引き直して課税するケースが増えています。路線価評価が否認されると、節税効果はゼロどころかペナルティが発生する可能性もあります。

重要なのは、事業上の合理的な理由があることです。自社の事業と関連した不動産投資であること、そして計画的に取り組んでいることが、リスクを下げるカギになります。「相続が近くなってから慌てて動く」ではなく、平時からの計画が求められます。

また、不動産には維持コスト(修繕費・管理費・固定資産税)もかかります。節税効果だけで飛びつくのではなく、事業全体のキャッシュフローを見ながら判断することが必要です。

「まだ早い」が一番危ない

事業承継を後回しにしがちな理由は「まだ元気だから」「そのうち考えよう」という心理です。でも自社株評価の圧縮は、今すぐ始めないと2027年の期限に間に合わない可能性が十分あります。

まず自社の株価評価額がどれくらいか、現状を把握することから始めてみてください。数字を見てから、次のアクションが決まります。事業承継を専門とする税理士への相談を、今期中に一度入れておくことを強くおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。